01
夏休みも残すところあと3日。
蝉の鳴き声も変わり、幾分か過ごしやすくなった昼下がり。
部活も今日からは宿題が終わってない奴がいるかもしれへんっちゅうことで休み。
俺は盆あたりくらいにまでは終わらせとったから、家でだらだらと過ごす気満々やった……んやけど。
「……は?何やて?」
その予定は目の前の日和によって脆くも崩されてしもうた。
「せやから、夏休みの宿題を手伝うて下さい」
両手を合わせて深々と頭を下げる日和曰く。
夏休みに課題と出されたもののうち、3分の1くらいが手付かずらしい。
「知らん」
小さい頃からアホやアホやと思うとったけど、これほどまでやったとは。
「んなもん自己責任や」
「そないなこと言わんと」
「断る。だいたいあの遠山やって昨日には終わらせてるんやで?」
「う゛っ……」
「大人しゅうセンセに怒られて居残りしとき」
ベッドの上で寝返りを打ち、日和に背を向けてひらひらと片手を振ると、騒がしかったんが急に音を失う。
このまま放っとけば、そのうち帰るやろ。
そう思って目を閉じると。
「!?」
首筋にひんやりとした感触。
思わず飛び起きれば、目の前に転がるんは俺のお気に入りの和菓子屋のクリーム善哉。
美味いだけあってそれなりの値段やから滅多には買えへん代物。
「こいつで如何でしょう、お代官様?」
「そないなフリにはノらへんぞ」
時代劇の悪徳商人のように胡麻をする日和をじとっと睨みつけたれば、おもろいくらいにがっくりと肩を落とす。
「……まぁ、せやけど日和にしちゃセンスええもん持ってきたやないか」
今回はこの善哉に免じて面倒みたるわ。
そう悪人っぽい笑みを浮かべて告げると日和は目を瞬かせる。
「俺がこいつ冷やしてくる間に用意しときや。せやないと宿題手伝うてやらへんで」
半信半疑な日和にそう言い残して階下のキッチンに向かうと、数拍おいて慌てて用具を取り出す音が聞こえた。
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