01
「さー、無事大会も終わったっちゅうことで、今年もやるでっ、流しソーメン!」
「「えぇ〜っ!!」」
全国大会決勝の夜。
毎年恒例となっとる肉々苑駐車場での流しソーメン大会をオサムちゃんが宣言すると、日和と遠山の2人が揃って抗議の声を上げた。
「今年もソーメンなん〜?」
「準優勝したんにしょぼい祝い方やなぁ」
「……金太郎と水無瀬、文句あるなら夕メシ抜きやで?」
「わーっ、オサムちゃんそれだけは堪忍やぁっ!」
「嘘です嘘です!ちょうどソーメン食べたい思うてたとこですねんっ!」
口を尖らせた2人にオサムちゃんが飯抜き宣言を下せば、簡単に意見を翻す。
ほんま、手のかかるとこはよう似とるわ。
「ほなら決まりな!白石ぃ、今年も頼むわぁ」
「了解しました」
人数分より明らかに量の多い素麺の束を抱えて白石部長が厨房へと向かう。
「悪いひな、薬味とか作るん手伝うてくれへん?」
「いいよ」
途中部長に声掛けられたひな先輩は、部長の隣に並んでついていく。
今はフツーに笑うとる2人やけど、試合の後、遅れて宿に戻ってきた時、うっすらと目が赤くなっとったんは見逃さんかった。
俺らの結果は準優勝。
優勝旗まで後一歩、届かへんかった。
今年がこの面子でチームを組める最後の年やったから、どうしようもない悔しさがこみ上げる。
せやけど、俺以上に悔しいんは先輩らのはずで。
俺がそれを表に出すんは筋違いのようにも思えた。
俺にはまだ次がある。
せやけど、先輩らはもう来年は四天宝寺におらへんのやから。
「光君?」
物思いに耽っとると、目の前でひらひらする掌。
はっと顔を上げると、心配そうに俺を覗き込むひな先輩がおった。
「ぼーっとしてるけど、大丈夫?どっか具合悪い?」
「いえ、大丈夫です。ちょっと考え事しとっただけなんで」
「そっか」
俺の答えに笑顔を返してくれるひな先輩。
改めて思うけど、この人にはよう助けられたわ。
「?私の顔、何かついてる?」
「いえ、」
ひな先輩の顔をそのままじーっと眺めとったら、きょとんと首を傾げられた。
「何や財前、ナンパか?」
「謙也さんと一緒にせんで下さい」
俺ら2人のやり取りに茶々を入れてくるのは謙也さん。
「誰が誰をナンパしとるって?」
「うぉっ、白石!?」
そしてひな先輩のおるとこならどこでもやってくる神出鬼没な白石部長。
「え、さっきまで自分金ちゃんとこにおれへんかったか?」
「素麺独り占めしようっちゅう金ちゃんを大人しくさせたら、何や不穏な単語が聞こえてなぁ。ひなに手だそうとしたんは謙也か?」
目の据わった白石部長に必至で首を横に振る謙也さん。
このやり取りももうみられんくなるんやと思うと、やっぱ寂しい。
「ざーいぜん。そないな顔しなや」
ぼーっと先輩らの行動を眺めとったら、ぐしゃりと頭を撫でられる。
手を伸ばしてきた人物に焦点を合わせると、少し切なそうな顔をした白石部長。
「せやせや。俺らこれで引退やけど、別に死ぬわけやないんやし。これからもちょくちょく顔出すつもりやしな」
「そないなこと言うて、受験大丈夫なんすか、謙也さん」
「あ、当たり前やろっ!」
無意識の不安を見透かされたような部長と謙也さんの言葉に、気恥ずかしくなってつい、いつもの憎まれ口をきいてしまう。
「ちゅうか、俺としては謙也さんらよりもひな先輩に顔出して欲しいっスわ」
「へ、私?」
突然話題を振られて目を丸くするひな先輩。
「何言うてんねん、ひなは貸し出し不可や不可!第一マネージャーなら水無瀬ちゃんがおるやろ!」
「日和だけや頼りないっちゅう話っスわ」
そして予想通りの反応をしてくれた白石部長。
「大丈夫だよ。日和ちゃん、この数ヶ月でマネージャー業板についてきたし。
ねぇ、日和ちゃん?」
「う?」
ひな先輩が声をかけると、遠山と素麺をめぐって取っ組み合いしとった日和がこちらを向いた。
その姿に、ほんまに大丈夫かいな、と一抹の不安が沸き起こる。
ひな先輩らもおんなじことを思うたんか、3人の顔には苦笑が浮かんどった。
とりあえず、俺は白石部長みたいに遠山(+日和)対策に、毒手代わりのなんかを身につけなあかんな、と改めて思うた夜やった。
流しソーメン(新しい季節はもうすぐそこに)
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