01



夏や!
海や!

「「「スイカ割りやーっ!!!」」」
「――って何でやねんっ!」
乗り気たっぷりの一同に唯一ツッコミを入れる俺。

「何や謙也、文句あるんか?」
「何って砂風呂ですやん」

文字通り上から目線で砂浜に埋まる俺を見下ろす白石と、冷静に状況把握を行う財前。

「そんなん見りゃわかるわっ!俺が言いたいんは、これからスイカ割りやっちゅーのに、なしてっ、お・れ・だ・け!こないな扱いやっちゅーことやっ!」
「え?」
「そんなん決まっとりますやろ?」

非常にいい笑みを浮かべた2人は、俺の頭の右側にスイカのビーチボールを、反対側に本物のスイカを置いた。

「「ダミー??」」
「アホかぁっ!」

揃って首を傾げた2人に声を大にする。

「なぁ白石さんや、スイカ割るんに使うもんは何や?」
「これやろ?」

さも当然とばかりに白石が手にしているのは、木刀くらいのサイズの流木。

「せやろ?そんなんで殴られたら俺が死ぬとか思わへん?」
「…………………………………………。
大丈夫やっ謙也なら!」
「何を根拠にっ!?ちゅーか、最初のどえらい間は何や、その間はっ!?」

胡散臭いまでに爽やかな笑顔で親指を立てる白石に、我が身の危険を感じたんは気のせいやない。

「大体っ!ダミーや言うけど、俺のどこがスイカやねんっ!スイカとは似ても似つかへんやろ、この金髪はっ!」
「心配ご無用やで、謙也先輩っ!」
「水無瀬!?」

なんとかこの状況から逃れようと、自慢の髪を白石らに向けて訴える俺に、ぎゅうと何かが被せられた。

「これを被ればアラ不思議っ!誰でもスイカ頭になれる、名付けてスイカ帽っ!」
「グッジョブ、日和」

ピースしながら、どこのテレビショッピングやっちゅーノリでまくし立てる水無瀬に、財前が親指を立てると、周りから拍手がおこる。

「手叩くとこちゃうやろっ!ちゅーか財前も誉めんなっ!んでもって、水無瀬っ!どないなネーミングセンスやねんっ!」

ぜぇぜぇ……。
アカン、三者三様にツッコミ入れたら息切れするわ……。

「なぁケンヤ、大丈夫なん……?」
「金ちゃん……!」

なんてええコ……!

心配そうな顔をして、目の前に屈む金ちゃんに思わずじーんとなった。

「なぁ金ちゃんっ!頼むっ!俺をこっから出してくれっ!」
「おんっ!任しと……」
「金ちゃん?」
ぞくりと冷たい空気を孕んだ声に金ちゃんが固まる。

「勝手なことしよったら……毒手、やで?」
「っ!?それだけは嫌やぁ〜」

叫んで俺の目の前から遠ざかる金ちゃん。

「あぁ〜……」
「残念やったな、謙也」

ニヤリと笑う白石を下からねめつける。

「毒手発動は卑怯やろっ」

あんな幼気なコを脅すとか、鬼や、オニっ!

「……何か言うたか?」
「ナンデモナイデス」

じとっとこちらに向けられた視線に硬直するも、あることに気がついてすぐ戻る。

「ちゅーかなして俺やねんっ!誰でもスイカ頭になれるんやったら、くじ引きでもして決めたらええやろっ!」

ちゅーかそれが1番に決まっとる。

「えぇーっ!」
「そんなんつまらへんやん」
「そうそう。謙也さんが1番ええ反応してくれますんに」

や っ ぱ し か っ!

口々に不平を唱える水無瀬、白石、財前。
自分の肩ががっくしと音を立てる瞬間を耳にした気がした。

こうなったら最後の手段や。

「ひな〜、」

諸悪の根源である白石の暴走を止められる唯一の人物に泣きついた。

「ねぇ蔵。さすがに謙也君が可哀相すぎるよ」

出してあげよ、と進言してくれるひなは、俺にとってはまさしく女神。

「せやなぁ……」

そんな彼女を後ろから抱きしめながら、白石は思案する素振りをみせる。

「もうすぐ全国大会もあるし、ふざけてて謙也君にケガされちゃったら大変だよ?」

白石の行動をすんなり受け入れたひなは、上目遣いで白石を見上げる。

「ひながそこまで言うならしゃーないわ」

うっしゃあっ!
さすがひな!
白石が折れたっ!

内心でガッツポーズをしながら叫んだ俺やけど、それも束の間。

「だって。よかったね、謙也君」

出るの手伝ってあげるね。

そう言うて笑いながらひなは俺の目の前に膝をついた。

必然的に視界に広がる、柔こそうな白い肌。
俺かて高校3年生。
女の子の無防備な姿が眼前にあったら、そりゃあドキドキするわけで。

「……ひな、ちょっとそこ退き」
「え?」

せやけどそれを赦してくれへん冷ややかな声。
その声に呼ばれたひなが立ち上がると同時に、ひゅんっと風を切る音。

「ひぃっ!?」

それとほぼ同じタイミングで、鼻筋すれすれの地面がめり込む。

「けーんーやー……?」
「や、ちょ、白石っ!」

目だけが笑うてへん笑顔に背筋が凍る。

「ま、待てっ!あ、あれは不可抗力やっ!」
「ほーん……。ひなの太股ガン見しとったクセに、言い逃れしようとは……、ええ度胸やなぁ……?」

白石の右手には小振りなスイカ。
左手にはバットよろしく流木(=さっき地面へこました凶器)が握られとる。

「いや、ちゃうっ!そういうつもりや……」
「覚悟はええか……?」
「ちょ、まっ、白石っ!!アカンっ!

……ぎゃあぁぁぁーっ!!」

結局、頭上目掛けて降り注ぐスイカの嵐を必死でかわす嵌めになったんやった。


スイカ割り
→気をつけよう 触らぬひな(神)に白石の怒り(祟り)なし(by謙也)

(ケンヤぁ、スイカ食わへんのん?)
(スイカなんて大嫌いやっ!)
(金ちゃん、仕方なかね。謙也スイカまみれになっとるから)




-9-

[ | ]

back
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -