05



「おぉー、結構本格的やなぁ」
「そうたいねー」

真っ暗闇の中にぼんやりと浮かぶ青白い光。
催し物会場にできたもんとは思えないくらいしっかりとした作りのお化け屋敷に、先頭を行く小石川と千歳が感嘆を漏らす。

「な、なぁ、千歳。アレ何なん?」

少し震える声で訊ねたのは金ちゃん。
金ちゃんが指差す先には、如何にも、という雰囲気を醸し出す井戸があった。

「あぁ井戸やね」
「まぁ、あぁいうんは大抵なんか出てくるわな」

千歳と小石川が冷静に答えを返す。
そして、それに反応するように腰の辺りがぎゅうぅ、と締め付けられる。

「ひな」

その犯人であるひなは俺の呼びかけも耳に入らんのか、ただ震える身体を密着させるかのように、俺の腰を抱きとめる手に力を入れる。

がたっ!

そして恐怖を煽るかのように目の前の井戸が音を立て、中から女の長い首が現れる。

「ぎゃあぁぁっ!ろくろ首やぁ!?」

金ちゃんの悲鳴に、ひなが息を呑む音が重なる。
そして、更に腰に回された腕に力が込められて、正直お腹んあたりがちょっと苦しい。

ひなってこないに力あったっけ。

そう思いながら、少し手を緩めて欲しくて、ひなの腕を解こうとすれば、置いてかれるとでも思うたんか、余計に締め付けてくる。

「ちょ、ひな。苦しいから……!」

身体を捻ることも難しそうなので、首だけで彼女を見遣れば、パニックに陥っているんか、やだやだ、と小さく呟きながら必死に首を横に振っている。

「大丈夫や、俺が護ったるから」

しっかりと腰に回された腕をそっと握り返してやる。

「絶対離さんから安心しいや」

背中越しの彼女に言葉を投げかけると、少しは伝わったんか、腕の力が緩められた。

「な、ひな?」

自由が利くようになった身体をひなのほうへ向けて、俯き加減の彼女の顔を覗き込むようにして問えば、潤んだ瞳と目が合った。
闇の中でぼんやりと映る弱々しい表情に、思わずどきりとしたんは見逃して欲しい。
そして、表情と同じく弱々しく頷いた彼女の頭を撫でて、背を向ける。

「ひな、おいで」

俺の意図を解したひながそっと腕を首に回す。
さっきまでとは比べもんにならんほどか弱いその力に苦笑した。
そしてどっからあんな力が出るんやろ、ちゅうくらい細っこくて軽い彼女をしっかりと背負う。

「蔵、ごめんね。ありがと……」
「どういたしまして」

耳元で囁いたか細い声に答えながら、ひなが怖がらない程度にゆっくりと歩いて、今のこの状況を楽しんでおこうと思ってしまったのは、ナイショの話。



お化け屋敷


その後。
(謙也さん、流石の逃げ足っスね)
(もっぺん入るか?)
(もう二度と入りたないわっ!)




-8-

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