02



「ちゅーか財前、自分こないな時期からバテとって試合は大丈夫かいな?」
「試合は別モンっスわ」
「ほんまかぁ〜?そないなこと言うて俺の足引っ張るんやないでぇ?」
「はっ、」
「鼻で笑うなや、鼻で!」

仲良く並んで話す謙也君と光君の後ろを蔵と手を繋ぎながら部室に向かう。

「はっ、」
「うわ、2度も笑いよった!」
「ま、しゃーないっスわ」
「しゃーなくないわ、アぶほぉっ!?」

光君と夫婦漫才ならぬダブルス漫才を繰り広げていた謙也君が突然奇声をあげた。
何事かと思って彼らの前方に目を向けると。

「よっしゃ、ケンヤ先輩仕留めたで!」

したり顔で右手に水鉄砲を構えた女の子。

「水無瀬!?」

どうやら謙也君の奇声の原因は彼女の水鉄砲が命中したためらしい。

「ようやった日和」
「えへへ!」
「ちょ、財前っ!?」

光君が日和ちゃんに向けて親指を立てると彼女は照れたような笑顔でピースする。

「先輩の威厳のカケラもないな……」

焦る謙也君をみて隣で呆れた顔をする蔵には、苦笑を返すしかない。

「ちゅーか水無瀬、自分どっから水鉄砲なんて持ってきたんや?」
「え?ちーちゃん先輩に貰た」

びしょ濡れになった顔を制服の肩で乱暴に拭って謙也君がきくと、日和ちゃんはさも当然と言わんばかりに、自分の背後を指した。

「お、謙也達もこっちに来なっせ。気持ちいいとよー」

スプリンクラーから吹き出る水を全身に浴びながらにこやかに微笑む千里君。
水飛沫がきらきらと夏の陽射しに反射して綺麗な光景なのだけど。

「いやいやいやっ!いくら気持ちええかて、それはアカンやろっ!」
「なんば、問題でもあるとよ?」
「大アリやっ!とりあえず上っ!カッターでもユニフォームでもええから何か着ろやっ!公然猥褻で捕まるわっこのど阿呆っ!」

謙也君の言う通り、千里君はバランスよく筋肉のついた上半身を惜し気もなく晒しているから、目のやり場に困る。
目線を泳がせていると、左側から伸ばされた腕に抱き締められた。

「ひな」

耳元で囁く低い声に、ぞくりとする。

「何や朱くなっとるけど、千歳の裸にどきどきしたん?」
「ちが……っ!」
「違うん?やったら顔朱いんはなして?」
「蔵、が、そんな声、出すから……っ」

蔵は私がその声に弱いと知っている上でやるのだから性質が悪い。

「そんならええわ」

いつものトーンに戻ってにこやかに笑う蔵に心底ほっとした。
ずっとあの調子で話し掛けられていたら、私の心臓が持たない。

「ちーとーせーっ!!」

私が逸る鼓動を落ち着かせていると、後ろから四天宝寺のゴンタクレこと金ちゃんの声が聞こえた。

「水鉄砲用の水、汲んできたでぇっ!」
「おぉ、金ちゃん!」
「今から投げるから受け取ってやぁーっ!」

「「「え゛」」」

スーパーウルトラ……とか何とか必殺技の名前を叫びながら小柄な体を思い切り回転させる。

「大車輪山嵐っ!!!」

金ちゃんの周りで風がおこるくらいの勢いがついた体から放されたバケツは、猛スピードで孤を描き。

「ひなっ!!」
「っ!」

――――ばしゃんっ!!!

滝のように私と蔵の頭上に中身をぶち撒けた。

「でっ!?」
「蔵っ、大丈夫?」

数瞬遅れて降ってきたバケツが見事蔵の頭に直撃。
衝撃で私の上に覆い被さってきた蔵を抱き留めた。

「……なんとか……。ひなは、って……!」

頭を摩りながら身体を起こした蔵は、私と目が合うなり顔を朱くして背けた。

「蔵?どうしたの?」
「あ……アカン」

起き上がり、蔵の色素の薄い前髪に隠れされた表情を窺うようにして尋ねるも、蔵は更に顔を逸らす。
そして遠慮がちに私を指差して一言。

「服……」
「服? ……ってきゃあっ!?」

蔵が差す先に目を向けると、水を被ったせいで制服のシャツにはっきりと下着が透けていた。
「と、とりあえずコレ着とき」

慌てて自分を抱き締めるみたいに背中を丸めた私の肩に、同じく慌てて鞄の中を探った蔵が、レギュラージャージを掛けてくれる。

「さて、金ちゃん」

そして焦った様子から一変、ドスを効かせた声を出して、冷ややかな笑顔を浮かべた。

「バケツ投げたら危ないっちゅーことはわかるよなぁ……?」

しゅるしゅると左手の包帯を解きながら、ゆっくりと青い顔をした金ちゃんの方へ歩いていく。

「げげっ!毒手!?」
「そりゃあなぁ。俺とひなに水ぶっかけるような悪いコにはお仕置きせんとアカンやろ?」
「わ、わざとやないんやっ!」
「金ちゃんはわざとやなければ何してもええと思うとるん?」
後退りする金ちゃんを、蔵は徐々に部室の壁際へと追い詰めていく。

「お、思うてへんっ!」
「ほなら、大人しゅうしとき」
金ちゃんは首がちぎれるのではないかと思うほどの勢いで必死に否定する。

「思うてへんけどっ、毒手は嫌やっ!ワイはまだ死にとうないんやーっ!!」
「あ、こらっ!金太郎っ!」

蔵が後一歩というところまで金ちゃんに迫ると、身の危険を悟った金ちゃんは俊敏な動きで横に逃れ、もの凄い速さで逃げ出した。

「謙也っ!金ちゃん追っかけて捕まえて来ぃっ!」
「おうっ!……ってなんでやねん!」

瞬く間に点になった金ちゃんを差して叫ぶ蔵にノリツッコミを返す謙也君。

「部長ら喧しすぎますわ……」
「ひーくん大丈夫?」
「元気があるんはよかことたいね」

その様子を頭を抑えながら見ている光君と、そんな彼を気遣う日和ちゃん。
そして暢気な感想を宣うのは、恐らく騒ぎの発端であるはずの千里君。

いつもと変わらないその光景を私は苦笑を浮かべつつ眺めるのだった。



水遊び
→羽目を外すんも程々にせんと痛い目みるで?(by白石)




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