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「自分ら3年生にとっちゃ、これが高校最後の夏や……」

珍しく真剣な口調で生徒に語りかけるオサムちゃん。

「俺から自分らに言いたいんは一言」

クラス一同、固唾を飲んでその話に耳を傾けている。

「四天宝寺生らしく、笑いに満ちた青春を満喫しぃや!」

がくーっ!

真面目な顔していつもと変わらないおちゃらけた台詞を宣うオサムちゃん。
真剣に話を聞こうとしてた私たち3−2のメンバーは、それはもう見事に揃ってコケた。

その様子をみたオサムちゃんはしてやったりとばかりに楊枝を加えた口元をにやりと吊り上げて。

「はっはー!というわけで、最後の夏を楽しみや、青少年諸君!」

いつもの大声といつものノリで終業式のHRを締め括った。

「「「よっしゃーっ!!!皆の衆、恵みの雨やー!!!

な つ や す み やーっ!!!」」」

オサムちゃんの話が終わった瞬間、一斉に沸き立つ教室。

去り際にオサムちゃんがこそっと「課題もやりや」と言ったのは、恐らく廊下側の最前列に座る私しか聞き取れていないだろう。

「ひな」

名前を呼ばれて振り返ると、苦笑を浮かべた蔵。

「みんなすごいテンションだね……」
「はは、せやな」

まぁ高校最後の夏やからなぁと、どこか感慨深げな蔵にそうだね、と同意すればちょっぴりしんみりとした空気が漂う。

「なーにシケた面してんねんっ!」
「ひゃっ!?」
「のわっ!?」

からりとした声と同時に右肩に回された腕。
蔵と同時に悲鳴をあげて振り返ると、ひまわりみたいに笑う謙也君。

「そないな顔しとると幸せ逃げるでぇ、お二人さん。オサムちゃんも夏を楽しめ言うてたやん」
「そうだね」

彼の笑顔につられて笑みを浮かべると、謙也君は歯をみせてにかっと笑ってくれたけど、ほぼ同時に彼の頭がべしっと叩かれた。

「お前に言われんでも楽しむわ。なー、ひな」

犯人はやっぱり蔵で、私との間に割り込む形になっていた謙也君をひっぺがし、テニス部とは思えないくらい白い腕で、ぎゅっと私を抱きしめる。

「ちょっとしたスキンシップくらいええやろー?相変わらず独占欲強いな、白石は」
「喧しい。文句言うなら今からの部活、謙也だけランニング5倍な」
「やから職権乱用やめぇっ!ひなからも言うたってやー」
「あはははは」

このやり取りも最早お決まりの漫才みたいなものだから、私も笑うだけ。
なんだかんだ言って最近は蔵もオトナになったのか、よほど職権乱用はしないし。
もしもの場合は勿論止めるけれど。

「ひな〜」
「先輩ら煩いっスわ」

謙也君が懇願する声に、無愛想な口調が被さる。

「このクソ暑いんによくそないなテンションでおれますね……」

気怠さを前面に押し出したような表情で私達の隣に並ぶのは光君。

「特に部長とひな先輩。見てるこっちが暑苦しいんで、離れてくれません?」

じとっとした視線をこちらに向けて、心底嫌そうに溜息を吐く。

「何や財前、妬きもちか?」
「ちゃうし」

にやりと笑う蔵に返す言葉にもいつものキレがない。

「光君、大丈夫?」

普段からどこか怠そうな雰囲気を醸しだしている光君だけど、今日はそれだけではなさそうだ。
心配になって蔵の腕をやんわりと解いてそっと彼の額に手を当てる。

「熱はなさそうだけど……」
「あー……、多分気温が体温超えたせいなだけなんで」

そういえば彼はかなり低体温だったっけ。
自分の額と温度を比べていると、光君はふいと顔を背けた。

「あ、ごめん。嫌だった?」
「いえ。そろそろ離れとかんとどっかの部長がアブないんで」
「ん?何のことや?」

光君の言葉に蔵の方を向けば、爽やかすぎる笑顔。

爽やかすぎる故に私の後ろで光君を脅してたんだとわかる。

「くーら?」
小さな子を叱る時のような口調で名前を呼ぶと「ひなが悪いんやもん」と拗ねた子供みたいに言って、再びぎゅっと抱きしめられる。
光君が小さく「うざ」と呟いたけれど、蔵は黙殺。
私も仕方ないからされるがままに任せて、下足箱からローファーを取り出した。




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