イジワルな魔女



「うー、けど開けられへん……」
ミトンをしているせいでクッキーの袋を上手く開けられない金ちゃんが、しゅんと眉根を下げた。
「しゃーないな。貸してみ」
そんな金ちゃんに溜息混じりに近寄って、その手からクッキーの袋を奪ったのは、真っ黒なローブに真っ黒なロングドレス、さらに頭に真っ黒な魔女帽子を被った美人さん。
えと、こんな人テニス部にいたっけ?
ていうか声低っ!
「ほれ」
黒いロンググローブを嵌めた手で袋を縛っていたモールを解いて金ちゃんの手に戻している。
私がその様子をまじまじと眺めていると。
「先輩、わかってへんの?」
少し残念そうな顔をする魔女。
……今いるメンバーで私を先輩呼びするのはひとりしかいない。
でも、まさか。
「おおきにー、財前!」
半信半疑だった私の前で金ちゃんが元気よく言った。

マ ジ で す か !?

「ひな先輩、今めっちゃアホ面してますで?」
あんぐりと口を開けた私に向かって魔女が一言。
うん、この毒舌っぷり間違いなく光君だ。
「……なんで、魔女?」
普段斜に構えている彼が素直に仮装していることとか、薄いけどきちんとメイクしていることとか(誰にやってもらったんだろう)、色んなことに驚いたけど、真っ先に口を吐いた疑問がそれ。
光君くらいかっこよければ、吸血鬼とか狼男とかのほうがしっくりくるのに。
「こうでもせんと、女子がうじゃうじゃついてきて鬱陶しいんスわ」
「あぁ……」
光君は1年生でレギュラーってこともあって、普段から追っかけさん多いもんね……。
不機嫌そうな彼の台詞に思わず納得。
しかし、まぁ。黙っていれば女の子と見紛うばかりに綺麗だな。
じっくりと光君の魔女姿を見つめて思っていると。
「先輩、ヒトの事じろじろ見とらんと、ハイ」
先ほどの金ちゃんよろしく黒い両手を広げる光君。
「ハイって……」
「Trick or Treat?菓子くれんやったら悪戯しますで?」
流石英語が得意科目なだけあっていい発音!
けどなんでだろう。ニヤリという擬音がしっくりくる笑顔の光君が悪戯って言うと、なんだかアブナイ単語に聞こえてしまう。
「なん?ひな先輩俺に悪戯して欲しいん?」
それならそれで構いませんで?と、光君がまるでこちらの思考を読んだかのように耳元に口を近づけて囁く。
「!!?」
驚いて思わず飛び退けば、冗談ですって、と笑う光君。
いや、ね。貴方が言うと冗談に聞こえないんですってば。
「で?結局菓子か悪戯どっちがええんスか?」
「お菓子あげるから大人しくしてて下さい!」
一歩詰め寄る光君の手にクッキーを乗せると私は即座に後退した。
背後で彼がちぇっ、と舌打ちしていたのは聞かなかったことにしよう。



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