人懐っこいヒョウ



そのはずだったのに。
今現在私は学校へ向かっている。
それは、昨晩『明日、朝9:00部室集合。お菓子ぎょーさん持ってきてな』と珍しく私がマネージャーを務めているテニス部部長・白石蔵ノ介からメールがあったから。
部長命令とあれば行かざるを得ない。まぁ、そうでなくても彼に惚れてる私が呼び出しに応じないはずはないのだけれども。
彼とはクラスも一緒でお互いにメアドを交換していても、滅多に連絡を取り合わない。大体学校にいる間に必要事項は連絡できてしまうから。
まぁ、つまりは業務連絡以外の連絡を取り合う必要がない関係なんだけど。
そんな彼からのメールで、しかも、それが部のメーリングリストじゃなくて私だけに宛てた単独メールだったから、尚更私は嬉しくなった。
それが、例え部の連絡事項だとしても、私の予定を変えるには十分すぎた。
恋は盲目というけれど、それでいいじゃないか。
手には昨日スーパーの閉店間際に買出しに行って作ったクッキーの詰め合わせ(レギュラーの人数分+数個)が入った紙袋を提げて時間通りに部室に行けば。



「「「ハッピーハロウィン!」」」


「!?」
盛大なクラッカー音で出迎えられた。
紙テープを頭から浴びながら目を丸くする私の目の前には、それぞれ思い思いの仮装をしたテニス部の面々。
「なぁなぁ、ひなひな。とりかとり?」
まだ事態を飲み込めていない私の元へ、中等部3年の金ちゃんがぱたぱたと駆け寄ってきて、制服の袖をくいくいと引っ張る。
えーと、“とりかとり”ってもしかして……。
「トリック オア トリートって言いたいの?」
「おん!それやそれ!お菓子か悪戯かーっちゅう意味なんやろ!」
満面の笑みで頷いて、金ちゃんは物欲しそうに私の手にある紙袋を見つめる。
そんな金ちゃんの服装はいつものタンクトップに黒のハーフパンツ。
だけど、いつもと違って赤い髪の上には豹柄の丸い耳。さらに私の服を引っ張る手には、同じく豹柄の猫の手ミトン。
「なー、ひな!それお菓子やろ!?はよーくれーな!」
「えー……、だって金ちゃんちゃんとトリック オア トリートって言えなかったじゃない」
白石君あたりに言ったら、お菓子どころか英語の補習をプレゼントされそうな金ちゃんの発音。だから私も少し意地わ……もとい、金ちゃんの英語レベルの引き上げに協力しよう。
「とりかとりやったらあかんのん?」
「そうだねぇ……。とりかとり、じゃなくて、トリック オア トリートだよ」
言ってみて?と促せば、
「とととり……えーっと、とりっくあとりーと?」
惜しいっ!
「えと、もう1か……」
もう1回言ってみよう、と言おうとして、半分涙目で上目遣いに見上げてくる金ちゃんと目があった。
くぅ……っ!かわいすぎるぜ、金ちゃん!
普段から金ちゃんはかわいいんだけど、今日は豹耳と豹手というオプションつき。
こんな可愛い子にこれ以上意地悪するなんて私にはできません!
「しょうがないなぁ、ハイ」
そうそうに英語指導を諦めて、ミトンの上にクッキーを詰めた袋を乗せてあげると、
「うわーっ、めっちゃうまそうやぁ!ひな、おおきに!」
先ほどまでの泣きそうな顔が嘘のような笑顔で喜んでくれた。




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