ヴァンパイアの誘惑(2/3)



「俺な……、ひなが名前で呼んでくれたら“好きや”って告白しようと思っててん」


「へぇ……って、えぇっ!?」
さらり、と白石君の口を吐いた言葉は私を驚かせるには十分すぎた。

「告白!?告白って誰にっ!?」
「そんなん、ひなに決まっとるやろ」
脊髄反射で身を乗り出して問い詰めた私に、「そこは話の流れを読んでくれや」と返す白石君の顔はほんのりと紅く染まっていて、今の言葉が聞き間違いではないと教えてくれる。
「嘘、私っ!?」
「嘘でこない恥ずかしいこと言えへんわ」
混乱する私の手を白石君が握る。
重ねられた掌は私のそれよりも熱くて、彼の緊張が伝わる。
「返事、聞かせてもろてもええ?」
熱を帯びた瞳で真っ直ぐに見つめられる。
桜色に染まる白石君の顔に浮かんでいるのは、期待とか不安とか色んな感情が入り混じった表情。

心配しなくても大丈夫だよ。
私の答えは白石君が望んでいるものだから。

そう伝えたくて、私も彼の瞳を覗き込むようにして微笑む。

「私も白石君が好きです」

言い終わるか否か、白石君の薫りに包まれる。
抱き締められた、と認識するまで数瞬もかからない。

「おおきに、ひな。愛しとるで」
耳元で囁かれると体中が熱くなる。
「うん……ありがと」
照れながらも白石君の背中に腕を回せば、抱き締める腕に軽く力を込められた。
「……ね、ひとつ訊いてもいい?」
「なん?」
「どうして、“名前で呼んだら告白”だったの?」
賭けの内容は分かったけれど理由が分からずに訊ねれば、背中に回されていた腕が解かれた。
顔を上げれば、罰が悪そうに包帯を巻いた腕で頬を掻く白石君。
「やって、ひな、謙也とか他の奴らは全員名前呼びなんに俺だけ『白石君』やったやん。嫌われとるかもしれんと思って……」
自信なかったんや。
そう口の中でもごもごと呟いた白石君に目を瞠る。
だって、テニス中とかえくすたしー言いながら決め顔作るあの白石君が言う台詞とは思えなかったから。
「そんな驚かんでもええやんか。俺やって普通の人間や。せやから自信もなくせば、好きな子とおったら緊張もするで?」
確かめてみ?苦笑を浮かべた白石君に手をとられ、彼の胸へと誘導されれば、掌を通して伝わってくる白石君の鼓動。
「すごい、早い……」
「ひなと喋っとるときはいっつもこうや。どう思われてんのやろって考えとると尚更、な」
「ごめんね」
「ええよ。大方緊張するから呼べへんかったってとこやろ?」
正しくその通りです。
白石君の指摘に私は素直に頷いた。
「ホンマひなは可愛えなぁ」
さらっと恥ずかしくなるような言葉をのたまって私の頭を撫でる白石君。

「でもこれからはちゃんと呼び慣れてってや」
「え!?」

あぁ、幸せだななんて思っていた私の思考が白石君の発言で一気に現実に呼び戻される。

「なして驚くん?」
恋人同士になったんやから下の名前で呼び合うんが普通やろ?
「他の男を名前呼びしとるなら尚更や」
た、確かにそうかもしれないけど……。
私にとってはめちゃくちゃ恥ずかしいことなんだってば!
「とりあえず1回だけでええから、さっきみたいに呼んで?」
俯く私の顔を覗き込むようにして目を合わせる白石君。
そんな、昔テレビCMに出てたチワワみたいな顔をされたら断るに断れないじゃない……。

「く、……」
「く?」
「くら、のすけ、くん……?」

緊張のあまりなんだか舌ったらずな言い方になってしまった。
「ようできました」
そう言って白石君はすごく可愛らしく(あんまり似合わない表現だけどこれが一番しっくりくる顔なんだ)笑って、恥ずかしがる私の頭を撫でてくれる。
「せやけど、“くん”はいらんで」
ちゅうわけでもう1回。
悪戯っぽく笑うしら、じゃなく蔵ノ介君。
「…………蔵ノ介」
恥ずかしさの余り顔から湯気がでるんじゃないかってくらい火照るのを感じながら、呼び捨てにしてみれば、今までにみたことのないくらい綺麗な蔵ノ介の笑顔。
「おおきに、ひな」
彼が綺麗なのはずっと前から知ってたけど、こんな笑みを向けられたら見惚れずにはいられないよ。
「……な、目瞑って」
まじまじと蔵ノ介を凝視していると、苦笑を漏らして囁かれる。
「ん……」
言われるままに目を閉じれば、頬に包帯のざらざらとした感触。
暗闇の中、蔵ノ介の顔が近付く気配だけが感じられる。
彼の吐息を肌に感じられる距離まで二人が近付いた瞬間。




-13-

[ | ]

back
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -