ヴァンパイアの誘惑(1/3)



屋上の、さらに上。
要するに入り口の屋根の上。
その場所に着いた私は、衝撃で数秒の間固まった。


「………………寝てる、の?」

傍らにカムフラージュ用だと思われるかぼちゃ頭を置いて、ヴァンパイアコスチュームの黒いマントにくるまって眠っているのは探していた相手、白石蔵ノ介。
すうすうと寝息まで立ててるなんて、珍しいにもほどがある。
「白石君、白石君」
起こそうと呼んでみるけど、全く反応がない。
「起きてよ、白石君」
日光で蜂蜜色にきらめくミルクティーブロンドを触ってみても起きる気配なし。
「白石君、白石君」
体をゆすってみても結果は同じ。
下から見たときはここの淵に腰掛けていたように見えたのに、誰も探しに来ないから安心してしまったのだろうか。
「これはこれでいいもの見れたってことにしとこうかな……」
授業中居眠りしてるとこすら見られないもんね、白石君の場合。
そんな彼の寝顔(それさえも綺麗なんだけど)を拝めたのは今ここにいる私だけなんじゃないだろうか。

そこまで思考を進めてはたと思いつく。

……今なら誰もいないし、いいよね。

「……蔵ノ介、君」

さらさらの蜂蜜色を撫でながら普段は恥ずかしさゆえに面と向かって呼ぶことができない彼の下の名を口にした瞬間。
「なん、ひな?」
「!?」
今の今まで熟睡していたはずの白石君が目を覚ました。
「なっ、ななっ、なんでっ!?」
「誰も寝とるなんて言うてへんで?」
ニッっと笑った彼に、騙されていたことを悟る。
「なっ、狡っ!なんで寝たフリなんかっ!」
「んー、ちょっとした賭けや」
仰向けに寝転がったままこちらを見上げてくる白石君が、眩しそうに目を細めて微笑う。
相変わらず綺麗なその顔に思わず怒るのも忘れてときめいてしまう。
やばい、重症だ。
「賭けってなんの……?」
「んー、まだナイショ?」
想いを悟られないように平静を装って訊ねれば、小首を傾げるようにして返されるものだから、ただでさえ熱い顔が更に火照る。
「なにそれ……。ずるくない?」
勝手に賭けられて驚いたほうの身にもなってほしいものだ。
「ハハ、悪いな。今はまだ言いたないねん、……」
「え?」
「ん?ひながそない可愛えカッコしてる理由教えてくれたら教えてやろか言うただけ」
言いたくない、その後に続けた言葉が好く聞き取れなくて聞き返したら、自分の首を絞めるような質問を返された。
「いいよ、……って、えぇっ!?」
似たような質問を先ほど千里君からされたけど、まさか、本人から訊かれるとは……!
恥ずかしさ、言い難さ、どちらもさっきの比ではない。
「なん、俺には言えへんの?」
赤面した顔を逸らしてどうしたものかと逡巡していると、白石君がしゅんとした顔で見上げてくる。
いや、“貴方には”ではなく“貴方だから”こそ言えないんです!

だって、ねぇ。
『“白石蔵ノ介を探せ!ゲーム”に参加するためです』なんて答え、告白と大差ないじゃないか!
なにせ賞品は白石君独占権なんだし!
流石にそんな公開処刑は御免蒙りたい。

「悪い悪い冗談やって」
恥ずかしさの余り死にそうな私に白石君。
「ひどいっ!」
流石に怒るよ、と拳を振り上げるフリをすれば、堪忍堪忍と体を起こす。
「でもまぁ、ええもん見せてもろたから、教えたるわ」
「へ?」
「俺の賭け。知りたいんやろ?」
脈絡から外れた言葉にクエスチョンマークを浮かべれば、白石君はいつもよりも綺麗に微笑んだ。
その笑顔に誘導されるかのように首を縦に振ると。




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