手先が器用なパイレーツ



「でも、私だけ知らないってのは寂しいなぁ……」
こんな楽しいイベントがあるなら誰か教えてくれたっていいじゃないか。
そう口を尖らせて不平を漏らせば、
「すまんすまん。てっきりひなも知っとる思て」
「せやなぁ。ひなはんずっと前からワシらとおる気ぃするからなぁ」
謙也君と銀さんはさり気なく嬉しいことを言ってくれた。
2人をはじめ、他のみんなにも悪気があって言わなかったわけではないってことはわかる。
でも、みんなが仮装をして楽しんでいる中、自分だけ制服姿っていうのはやっぱり寂しい。
「私も何か着たかったなぁ……」
小さく呟けば、
「せやったらこん中から好きなん選びや」
さながらシンデレラの魔法使いのように現れたのは、モノマネ王子一氏ユウジ。
海賊の格好をした彼の両手には女の子ものの仮装衣装が数着ある。
「知らんやろうなと思ったからな、小春や俺の作るついでにお前のも作ってやったんや」
感謝しぃや、と鼻を鳴らすユウジ君の両手をとり、勢いよく上下に振ってありがとうと言えば、照れたように顔を背けられた。

「う、わぁ……」

悪魔、猫耳メイド服、赤と黒を基調にした女性版吸血鬼の衣装にはご丁寧に牙までついている。
そして、極みつきは白とピンクを基調にしたロリータ調の魔女衣装。
「これ、全部ユウジ君が作ったの?」
「せや」
父親がデザイナーだって話を耳にしたことはあるけれど。
これらはデザイナーの息子だからっていう理由だけで作れるような代物ではない。
モノマネ以外の新たな彼の特技に私は思わず目を瞠った。
「ほれ、早よ選びぃ」
急かされるけれど、どの衣装も素敵で迷ってしまう。
「ひな、これなんてどや?」
うーん、と唸っている私に謙也君が渡してくれたのは、先ほどのロリータ魔女の衣装。
「これはちょっと……」
私には可愛すぎるよ、と断ろうとしたら、ユウジ君が謙也君からそれを取り上げた。
「これはアカン。俺の小春専用衣装やから」
これ着た魔女っこプリンセス小春を海賊の俺が攫うんや!と力説するユウジ君に、だったら初めからよけとけ!と謙也君が盛大なツッコミを入れた。
「じゃあ……これにするよ」
私は残りの衣装の中から襟元に黒のファーをあしらったノースリーブのロングコートにキャミソール、ショートパンツにロングブーツという組み合わせに悪魔の羽根を模したモチーフがついたカチューシャをあわせたセットを選んだ。
「そういえば、その小春ちゃんは?肝心の白石君や健二郎君、それに千里君もいないみたいだけど」
ありがとう、とユウジ君から衣装を受け取り、代わりに手作りクッキーを手渡しながら、ふと何人かの不在に気付いた。
ていうか、呼び出した張本人がいないってどうなんだろう。
白石君からの初メール、少し期待したんだけどな。
「小春は生徒会や。千歳は……まぁ、そこら辺ぶらついてんやろ」
……流石千里君。
自分さえも神隠しできてしまうんだね。
「白石と小石川は……」

ピンポンパンポーン

ユウジ君が続けようとした瞬間、校内放送の合図が鳴った。





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