『続きまして第二種目、チーム対抗リレーの選手は入場ゲート前に集合してください』

マイクのボタンをオフにして、ふぅと小さく溜息を吐く。
校内放送を担当するようになって数か月経つけれど、やっぱりまだまだ緊張してしまう。

「紅林、お疲れさん」

放送機器の上に突っ伏す私の肩をぽんと叩いて労いの言葉をかけてくれるのは忍足君。
よう頑張ったな、とこちらに向けられた笑顔に、ほっこりと胸が暖かくなる。

「忍足君こそ。実況お疲れ様でした」
「あんま、うまくいかへんかったけどな……」
「そんなことないよ。すごく面白かった」
「そうか?」
「うんっ!本当ありがとうございました」

ぺこり、と頭を下げると忍足君の金髪も下がる。

「忍足君は今からリレー?」
「せや」
「そっちも頑張ってね。そして是非とも白にポイントを!」
「勿論や!紅林も応援よろしゅう頼むで!」
「はい」

走り去っていく忍足君の背中を見送りながら、熱い頬に冷たい風が触れるのを感じていた。


***


忍足君と出会ったのは今年の春。
委員会の初顔合わせの時だった。
中学生の頃からテニス部レギュラーで有名だった忍足君。
派手な外見から少し怖い人かな、とか思っていたけれど話してみるととても面白くて。
放送の知識もなくて機械いじりも苦手で、あがり症な私の面倒までもみてくれて。

外見だけで怖いかも、と思い込んでいた自分が恥ずかしくなるくらい、忍足君は優しい人だった。


***


「え、ちょ、あれ……」

委員会の仕事を終えて、自分の控え席で回想に耽っていると、隣にいた友人が肩を叩く。
彼女同様多くの女子が何やらざわめきたっている。

「うっそホンマ?」
「白石君と忍足君、あの2人が勝負!?」
「めっずらしー」
「ちゅうか四天宝寺史上初めてちゃう?」

さっきまで思い出してた人の名前が聞こえて顔を上げれば、周りのみんなが騒いでいる通り、アンカーのタスキをつけて並び立つ白石君と忍足君。
その向こうから紅が2番手の白をはじめとした後続にかなりの差をつけて迫ってきている。

『紅組Aチーム、最後のバトンがアンカー白石蔵ノ介に渡ったぁ!』

放送委員の実況を掻き消す勢いで白石君のファンであろう女の子たちの黄色い歓声が飛び交う。

『紅組Aに引き離されとった白組Bチームもアンカーにバトンが渡ったぁ!自慢の俊足で浪花の聖書を追いかけるのは浪速のスピードスター、忍足謙也!テニス部レギュラー対決やぁっ!』

ぐんぐんと加速する忍足君に、場内が一斉に沸き立つ。
彼がバトンを手にしたときには既に白石君は最初のコーナーに差し掛かっていたはずなのに、その差があっという間に縮まっていく。

「「おーしたりっ!!おーしたりっ!!」」
「「しーらいしっ!!しーらいしっ!!」」

場内の注目も応援も、置き去りにしてトップを走る2人に集中する。

そして、ゴール目前にして白石君の横に忍足君が並び立ったと思うのも束の間、最後のコーナーにある私たちの控え席の前をミルクティ色と金色の風が走り抜けていく。

『応援よろしゅう頼むで!』

ほぼ平行に並ぶ2人が走り抜ける際、彼の言葉が脳裏に蘇った。

「忍足君、頑張ってっ!!」

ゴールテープに迫る背中に向かって声を張り上げる。
それと同時に白い線が風に舞った。

後姿しか見えないこちら側からでは同着にしか見えなかったこの対決。

『判定結果、でましたぁーっ!チーム対抗リレー、1着は……、白組Bチーム、忍足謙也!』

わぁ…っというざわめきと同時に拍手喝采が起こる中、白組のみんなが一斉に忍足君のもとに駆け寄る。

「さすがスピードスターや!」
「やったな、忍足!」

白組の仲間たちだけでなく、クラスメイトやテニス部の面々に囲まれたりどつかれたりしてる忍足君を少し離れた場所で眺めていると、不意に彼と目が合った。

「紅林!」

にかっと笑ってピースサインを向ける忍足君。
真似してピースを返すと、彼の笑みが深くなる。

一瞬、周囲のざわめきが静まった気がしたけど、すぐに元通りになって白組の男子たちが忍足君の胴上げを始めた。

話せなかったの、残念だな。

少しだけさみしさを感じながら、勝利に沸き立つ白組のみんなと一緒になって、忍足君にもう一度拍手を送った。




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