パンっ!パンっ!

高く青い空に開会を告げる花火の音。

『さぁさぁ始まりましたっ体育祭!』
『天気も絶好の秋晴れでまさしく体育祭びよりやなっ!実況は放送委員長忍足謙也と、』
『同じく放送委員の、紅林なずながお送りいたします!』

開会早々どきまぎしとる忍足謙也です。
理由は簡単。
隣に彼女、紅林がおるから。
毎週金曜、今みたいに一緒に放送担当しとるはずなんに鼓動が速くなってまうんは、今日は何が何でもええトコ見せなあかんっちゅう緊張感のせいなんやろか。

『毎年抽選によってプログラム順が決められていますが、今年の第一戦めはパン食い競争!各色男女それぞれ3チームがエントリー!では選手紹介を忍足君、お願いします』
『…………』

「……忍足君?」
『わっ!』

ちょんちょん、と肩をつつかれ、そちらを見ればきょとんとした紅林の顔。
あまりにも至近距離やったから、思わず声を出してしもた。

「ど、どないした?」
「パン食い競争の選手紹介」
「あ、あぁせやったせやった」

耳打ちしてくる声に加速する鼓動を感じながら、ぼんやりとしとった自分を深く反省。
初っ端から失態をみせてしもたわ。

『それじゃ選手紹介行くで!まず赤組男子Aチーム1年・テニス部のゴンタクレ遠山金太郎!金ちゃん、パンは1コまでやで!』
「ワイはそこまでがめつくないわーっ!」

放送機器を介さずに、運動場の反対側から抗議の声が届く。

『対する白組!男子Aチーム、3年・千歳千里!そのデカい身長と才気煥発を活かして白に1勝頼むで!』
「やれやれ。謙也も簡単に言うてくれるばいね」

と言わんばかりに目立つ長身が肩を竦める。

『えー、続いて赤組女子Bチーム、1年・水無瀬日和!金ちゃんに続き色んなイミで強敵やなぁ』
「一言余計や、ヘタレ先輩!」
『誰がヘタレやっ!』

本部席の目の前で待機しとった水無瀬が、立ち上がって大声を上げる。
それに言い返すと場内から一斉に笑いが起こった。

え、別に漫才でもなんでもないんやけど。

『ほな、』

放送が運営担当である生徒会が持つマイクに切り替わる。
司会は生徒会会計でもある小春。

『場も盛り上がったところで、パンくい競争はじめまひょか。まずは男子の部。第一走者、位置についてよーい、』

パァンッ!

小春の合図に合わせて体育教師のオガちゃんがピストルを撃った。

『フライング判定なし!順調な滑り出しはやっぱり1年の遠山金太郎や!目の前に人参ぶらさげた馬のようにパンの竿まで猛ダッシュ!そして、あっという間にパンをもぎとったぁっ!』

男子の部第一走者は金ちゃんの圧勝。
恐るべしゴンタクレや。

『続いて男子の部第二走者!いちはやく竿に辿り着いたのは3年生の千歳千里君!長身を活かしてパンをとれるかと思いきや、逆に竿の高さが低すぎて取り辛そうですねー』
『千歳、何やっとんねん!才気煥発使てベストな高さタイミングを見抜くんや!』
「そーいう謙也は公平に実況せんかい!」
『でっ!』

どこから湧いてでたんか(おそらく小春にくっついて来よったんやろうけど)、いつの間にか背後に立っとったユウジにいきなし脳天チョップをお見舞いされた。
派手に崩れる俺の頭上にくすくす、と可愛らしい声。

あかん、紅林に笑われてしもた……。

がっくしと肩を落として項垂れとると、偶然にも本部席前に控えとる水無瀬と目が合うた。

フフン、と鼻で笑うとか、やっぱし可愛げのない後輩や。
まったく誰に似たんやろ。

そんな水無瀬やったけど、運動神経は金ちゃんばりにええもんやから、女子の部第二走者では他の子らを余裕で引き離し1位。

パン食い競争の結果は紅組の勝利やった。





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