秋と言えば色んな種類の秋がある。
食欲の秋。読書の秋。
そしてスポーツの秋。
お祭り好きな四天宝寺がそれに関する一大イベント見過ごすはずがなく。
秋晴れが続く空の下、体育祭への熱気が高まりつつあった。
「ね、ね。みんなは赤白どっちになった?」
主なメンバーが揃ったテニス部の部室で、先程の全校集会で行われたチーム分けの結果を訊く。
四天宝寺の体育祭はちょっと特殊で、全校生徒が学年クラス問わず、2チームに別れて行う紅白戦なのだ。
「俺は赤や」
「俺もっス」
真っ先に答えてくれたのは蔵と光君。
「やった、ウチひー君とおんなじや!」
「……誰か白おりません?俺と代わって下さい」
「ちょ、ひー君ひどない、それっ!」
光の答えに諸手を挙げて喜んだのは日和ちゃん。
対する光君は悪態吐いてるけど、アレは光君の照れ隠し。
「因みにひな先輩は?」
「私も赤だよ」
光君の問いに赤いはちまきを見せて答えると、不意に肩を掴まれた。
「当たり前や。俺とひなが離れ離れになる訳ないやろ」
私を背後から羽交い締めにするのは誰あろう蔵で。
「ちょ、蔵、恥ずかしいからやめて……」
「嫌や」
駄々っ子みたいな蔵に困惑していると、光君や日和ちゃんがご馳走様と言わんばかりに顔を背けた。
「ち、因みに他のみんなは?」
「ワイも赤やで!」
蔵の腕から逃れようともがきながら訊ねると、金ちゃんが元気よく答えてくれる。
「ワテらも赤よん♪」
「俺と小春はひなら以上の絆で結ばれとるからな」
仲良く肩を組んでるのは名物ラブルスの2人。
「後はみんな白?」
「せやな」
健二郎君が代表して答えてくれる。
「さすがにこの人数だとみんな同じって訳にはいかないか」
「そらそうやろ。11人がおんなじ色になる確率てかなり低いやろ?な、小春」
「そうやねぇ、例えば全員が赤になるとして……」
ユウジ君の言葉を受けて計算しだす小春ちゃん。
そこまで真剣に計算しなくても、と思ってしまうのは私が数学が好きではないからだろうか。
「それにしても、」
ラブルスの会話を苦笑しながら眺めてた私(と蔵)の横で、今まで静かにしてた千里君が口を開いた。
「今年は面白いことになりそうばい。白石と謙也が別々のチームになるなんて」
「あれ、2人ってずっとおんなじだったんだ?」
「少なくとも俺がここに来てからはそうやね」
それ以前は知らんけど、という千里君に続けて、銀さんがその前2年もそうやったな、と感慨深げに答えてくれた。
昨年2人が一緒のチームだったのは知っていたけど、まさか5年連続とは驚きだ。
「さすが親友というべきか……」
私が目を丸くしていると、しかし、と頭上で溜息混じりの声。
「よりによって厄介なヤツが敵にまわったもんやで。謙也のスピードには陸上部のヤツらでも太刀打ちできひんからなぁ」
そして苦笑を浮かべる蔵だけど……。
「そういう割には、何か楽しそうだね?」
「ハハ、バレたか。いっぺんは謙也とテニス以外のもんで本気の勝負してみたかってん」
「謙也君ー。ここにこんなこと言ってる人がおりますが、勝負申し込まれた身として一言ー……って、」
こういうノリで話を振るとすぐにノってきてくれるはずの彼から何の反応もない。
不審に思って彼のほうを見れば、ぼんやりとした表情で虚空を眺めている。
「……謙也君、具合悪いの?」
「まぁあるイミで病気やわな」
何となく小声で蔵に訊ねると、蔵も同じように小声で返す。
「えぇっ!じゃ、じゃあ保健室連れてかないと!」
「その必要はないで」
「え?」
「謙也の病名は恋患いやから」
蔵曰く、謙也君は隣のクラスのなずなちゃんに恋してるそうで。
「体育祭でええ雰囲気になったとこでも妄想しとるんやろ」
苦笑いの苦味を濃くしたような表情を浮かべた蔵は、しゃーないな、とひとりごちて静かに謙也君に歩み寄る。
そして――。
――ゴンっ!
包帯を巻いた左手を思いっ切り謙也君の頭に振り下ろした。
「って!?な、何すんねん白石!」
「そういうお前も何にやにやしてんねん。アヤしすぎるで」
「べ、別ににやけてへんし!」
「それならええけど、あんまし気ぃ緩めとると紅林さんに格好悪いとこしか見せられへんで?」
「よ、余計なお世話や!浪速のスピードスターは無敵やっちゅーねん!」
「ほー」
謙也君の無敵宣言で蔵の闘志に火がついたらしく、瞳の奥がキランっと光った。
「せやったらその無敵艦隊沈めたろやないかい。な、赤!」
「「おー!!」」
「簡単に沈められてたまるかいなっ!寧ろ赤をぶっ倒したるわっ!な、白っ!」
「「おー!!」」
2人の闘志が飛び火してテニス部内が異様な熱気に包まれる中、時間はあっという間に流れ、体育祭という名の戦いの火蓋が落とされるのだった。
-2-
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