忍足君の前から逃げ出してひとり、校舎の陰に隠れる。

「び、びっくりした……」

突然の出来事に、頭の整理が追い付かない。

『お、俺は、紅林なずなさんが大っ好きやーっ!』

少しどもりながら叫んだ忍足君。
彼の言葉が耳に残って、呼吸を整えてるはずなのに、加速する心音が止まらない。

どうして、だろう?

忍足君を思い出すと鼓動が激しくなる。
彼のことを想うだけで、胸が苦しくなる。

『大っ好きやーっ!』

大きな声で叫んだ告白。
あの瞬間は恥ずかしいばかりだったけれど、人気の少ないところで思い出す度、どくん、どくんと心臓が跳ねる。
嬉しい気持ちになる。

あ、そうか。
これが好きってことなのかな。

今まで色恋沙汰に縁がなかったせいで、わからなかったけれど。
一度理解してしまえば、すんなりと納得がいった。

放送委員の仕事が楽しみだったのも、忍足君に会えるからで。
いつの間にか彼に恋してたんだ。

返事、しなくちゃ。

そう思ってはたと気づく。

『ご、ごめんなさいっ!失礼します!』

あれ、さっきもしかして私って……。

自分のしでかしたことを思い出せば、一気に血の気が引いていく。

あれって断ったことになっちゃってる!?

そうだとしたら、謝らなくちゃ。
謝ってちゃんと、自分の気持ち伝えなくちゃ。

あわあわとする私の耳にグランドの放送が届く。

『白組最後の1組は……。
忍足謙也君と紅林なずなさん、です』

それを聞いた瞬間、私は無意識に走り出していた。





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