『ご、ごめんなさいっ!失礼します!』

真っ赤な顔で走り去った、紅林の言葉が頭から離れへん。

「なぁなぁ、白石。ケンヤどないしたん?」
「金ちゃん、今はそっとしとき」

白組からの視線が痛くて、紅組の控え席の後ろ、目立たんとこに座り込んで溜息を吐けば、自分の中からすべてが抜けてくような気がした。

「し、白石っ、大変や!ケンヤの口からなんか出とるで!?」
「うぉっ!?謙也、しっかりせぇっ!」

金ちゃんと白石に乱暴に身体を揺すられて意識を取り戻す。

「……俺、振られてしもたんやなぁ……」

どうあがいても変わらへん事実をぼそっと口にすれば、金ちゃんはぽかんと、白石は何とも言えへん顔をした。

「謙也、その、色々すまん……」
「別に白石のせいやあれへんから、気にせんで」
「せやけど、」

振られた当人以上に悲しそうな顔をする白石に、怒りよりもこっちが申し訳ないような気分になる。
2人の周りを重苦しい空気が包んだ瞬間、それとは全く正反対の放送が響いた。

『さーあ、体育祭も大詰め!今年最後の種目は、愛の闇鍋二人三脚やーっ!』
『この種目は男女のペアでグランド1周!その速さを競う競技です!』
『しかーし!誰が出場するのかは今日この時まで謎のまま!1度も練習なしでどれだけ2人の息が合うかが勝負のポイントになってきます!まさしく2人の愛が問われる種目!』
『それでは、早速気になる出場者の発表に参りましょう!まずは白組1組め!切っても切れへん縁で結ばれとるこの2人!一氏ユウジ&金色小春!』
『ってどっちも男やんけっ!』
『これはルール上いかがなんでしょうかね、ムアンギ校長?』
『おもろければ何でもOK!』
『と、ムアンギ校長のお許しも出たところで、紅組1組め!やはり来た!四天宝寺公認カップル白石蔵ノ介&五十鈴川ひな!』

「ほれ、白石呼ばれとるで」
「お、おん」
「俺のことはもう気にせんでええから、早よ行きや。ぼーっとしてひなの足引っ張るんやないで」

この場を離れていいのか躊躇っとる白石の背中を押したれば、心配そうな視線を残して、入場ゲートの方へ向かっていった。

その背中を見送って、これからどうしようかと考える。

自分の控え席や放送委員の席に戻っても、憐れむような視線が痛いだけやし、どっかひとりになれるとこにでも逃げようか。

そう決めて、立ち上がった時やった。

『それでは白組のラスト1組は、』

テンポよく選手紹介をしとった放送がぶちっと途切れる。
不意に黙り込んだ放送に疑問を抱いたんは俺だけやなく、少し離れた紅組控え席からも「どないしたんやろ」っちゅう声が漏れ聞こえてきた。

『…………………えー、大変発表しづらいんやけど、白組最後の1組は……。


忍足謙也君と紅林なずなさん、です』



まさかの組み合わせに気が遠くなるような思いがした。





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