「嫌っスわ、そんなん」

紅組3年生の控え席の隣紅組2年生の控え席で、白石に代わる助っ人候補・ダブルスパートナーでもある財前の姿を探し、事情を説明したんやが。
冷めた眼差しを寄越してにべもなく断りよった。

「なしてあのアホな先輩らとキャラ被るような真似せんとあかんのですか」
「俺を助けると思うて!頼む財前!」
「モーホーの仲間になるんは嫌です」
「そこをなんとか!」
「嫌や言うてるんや」
「後で善哉奢ったるから!」

善哉、という単語に財前の肩がぴくりと跳ねた。
そして顎に手を当て考える素振りを見せる。

よっしゃ、これはもうひと押しや!

「勿論タダの善哉やない。自分が1番好きな甘味処のクリーム白玉善哉奢ったるで?」
「……そこまで言うならしゃーないっスわ。俺でええな、」
「ひー君ストップ!」

財前の承諾を得て一安心かと思いきや、またもや俺の前に立ちはだかる障壁。
財前の後ろから猛ダッシュしてくる水無瀬は、財前と俺の間に立つと俺の努力を水の泡に化すようなことを宣った。

「クリーム白玉善哉ならウチと部長が奢るから、謙也先輩の口車に乗せられたらあかん!」
「ちょ、水無瀬!邪魔すんなや!」
「謙也先輩こそ、紅組メンバーの力借りて優勝狙わんといてください!しかもひー君を善哉で釣ろうとか、卑怯やで!」

いやいやいや。
自分も今おんなじことやっとるからな?

「ちゅうわけや、ひー君。白の謙也先輩に協力したらあかん」
「せやな」

心のツッコミも虚しく、財前はあっさりと水無瀬の手に落ちよった。

「ちょ、財前!自分薄情やな!先輩を助けたろうとは思わんのか!?」
「わざわざ敵に塩送るほど俺は優しないですわ。大体俺が得することなんもあれへんし。謙也さんがクリーム白玉善哉3つ奢ってくれる言うなら話は別やけど」

……流石に財前の好きな甘味処のクリーム白玉善哉を3つも奢ってやれるほど、俺の財布は潤ってへん。
何や、この微妙に納得いけへん断られ方。

ちゅうか、白石もあかん、財前もあかんとなると俺は誰を頼ればええねん。

『忍足選手が借り物選びに苦戦する中、片手にヅラを持って観客席から飛び出してきたんは紅組の遠山金太郎!野生児のあとを必死にヅラの持ち主と思われる教頭センセが追っかけます!』
「忍足ーっ!何をのそのそしてるんやーっ!」
「後輩に負けてまうでーっ!?」

がっくしと肩を落とす俺を更に追いつめるかのような実況と、白組からの怒声。

せやかて、どないすればええんやっちゅうねんっ!

「あ、謙也先輩に部長から伝言。白の副部長とかちーちゃん先輩とか頼っても無駄やで?潔くナントカ先輩に告白しぃや、やって」

な ん や て ! ?

とりあえず最悪の場合、テニス部メンバーに手当たり次第声かけて協力を求めようとした俺の希望は、この一言で打ち砕かれた。

くそう、白石め……っ!
俺になんの恨みがあるんやっちゅうねんっ!

「忍足ーっ!はよせんかーっ!!」

内心で悪態をついてる間にも、白組控え席から早くしろっちゅう声が飛び交う。

だーっ、もう!ままよ!

白石に退路は断たれ、正に背水の陣。

俺かて金ちゃんに負けるんは嫌やから、慌てて白の控え席に乱入して、お目当ての人物を探す。

「紅林!」

レースの行方を見守っとった小さな背中に声をかけると同時に、小さな背中を掻っ攫う。

「へ、え、あ、お、忍足君!?」
「口閉じて!舌噛むでっ!」

そして俗に言うお姫様抱っこっちゅうやつで紅林を抱えて、コースを全力疾走。

白組3年の控え席がゴールに近かったことも幸いして、すぐに金ちゃんの横に並ぶことができた。

「なっ、謙也いつの間に!?」
「浪速のスピードスターやからな!」
「ワイやって負けへんで!ふんぎぃっ!!」

『ゴオォォォルっ!僅差で忍足謙也、先輩の意地を見せてトップでゴールしました!』
『それでは、早速指令を実行して貰いましょう!』

どくん、どくん。

抱えていた紅林を下ろして、彼女の目の前に立つ。
高鳴る鼓動を抑えるために、深く息を吸って吐いて。

「紅林、今から俺が何言うても驚かんで聞いてな?」
「う、うん」

自分がなぜここに連れてこられたのか、イマイチわかってへん彼女は目をしぱしぱさせながらも頷いた。
それを見届けて、大きく息を吸い込む。

そして。


「お、俺は、紅林なずなさんが大っ好きやーっ!」


山に向かって叫ぶ要領で、指令を実行した。





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