『只今より1時間の昼休憩を……』

「ふいー、やぁっとお昼やー」

放送を聞き流しながら大きく伸びをする。
さっきの障害物競争も無事紅組の勝利で終わったし、ええ気分でランチタイムを迎えられそうや。

「なぁなぁ、日和!今日は何買う?」

いっつも一緒に学食行っとる金ちゃんが、にこにこと懐いてくる。

「ウチ今日は弁当やから、ここらへんで適当に食べとくわ」
「そうか〜」

普段は一緒に学食に突撃かけてわいわいやっとる分、しゅんとした金ちゃんに申し訳ない気もするが、ウチには体育祭の日まであの熾烈な戦いを繰り広げる気はない。

「ごめんな、金ちゃん。ちゅうか、金ちゃん急がんと、めぼしいもん売り切れるで」
「そやった!ほなワイ行ってくるわ〜!」

猛ダッシュで食堂に向かう金ちゃんを見送って、ふぅと溜息。

張り切って弁当作ったんはええけど、誰と食べよ。

一緒に食べよ思うてたひー君は、さっきの障害物競争終了後から全然みつかれへんし。
ひな先輩は部長が独占しとるし、ラブルス先輩らと食べるんは疲れるし、ほかの先輩らとか仲のええ友達はみんな白組やし。

誰もおれへんならせめて快適な食事場所を確保しようと、中庭のほうまで歩いていくと。

「「あ、」」

行方不明やったひー君を発見した。

「ひーっ!!?」

手を振って大きな声で名前を呼ぼうとしたら、謙也先輩か!とツッコミたくなるような速さでウチの腕を引いて近くの茂みの中に飛び込む。

「ふむむむっ!」
「アホっ、少し黙っとれ」

ギロ、と睨まれて大人しくなると、ひー君は口に当てていた手を緩めてくれた。

「財前くーん」
「どこにおんのー」

そして2人で息を潜めていれば、ぞろぞろと女の先輩方がひー君を探しにやってきた。

「ここにもおれへんみたいやねぇ」
「せーっかく黒猫財前君愛でながらお昼にしよ思うたんになぁ」
「逃げ足の速さもまさしく猫やねぇ」

……納得。
ひー君が障害物競争のあとすぐにおれへんようになったんは、あのオネーサマ方から逃げとったからなんや。

「ようやっと諦めたか……。ったく、しつこすぎるわ、あの人ら」
「お疲れ様……」
「大体、男が猫耳つけたって全然おもんないわ」
「言う割には結構似合ってたで、ひー君」
「……そういや、自分も俺にやたら長くバトンパスやらせおったな」

ひー君の目が半眼になった。
あかん、余計なこと言ってしもたわ。
なんらかのお返しが来るのを想定して身構えとると。

ぐぅ〜

突如響く間の抜けた音。

「アカン……。逃げ回りすぎて腹減った……」
「ふはっ、」
「笑うな、アホ」

ひー君らしくなくて、思わず吹き出してしもたら身体を起こしたひー君にデコピンされた。
痛い。

「日和、なんか食うもん持ってへん?」
「おん、あるで」

多分ダメ元で訊いてきたんやろう。
抱えとった弁当箱をひー君の前におけば、ほっそい目を僅かに見開いた。

「ちょっと多めにあるから一緒に食べよ」
「ええの?」
「おん」

ほな、いただきます。

2人で手を合わせて思い思いのおかずに箸を伸ばした。





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