「お、終わった……」
「ひな」

ミニスカメイド服という何とも恥ずかしい恰好で走り終えて息を整えていると、ふわり、と肩に何かが掛けられる。

「おつかれさん」

頭上に降ってきた声に顔を上げれば、蔵がいて。
差し出された手を取ると、座り込んでいた私を優しく引っ張って立たせてくれる。

「その恰好、よう似合うとるな」
「ありがと……」

かわええ、だなんてさらりと口にする蔵に顔を赤くして、肩に掛けられていた蔵のジャージを引っ張る。

「せやけど」

少しだけ声のトーンが低くなったような気がして首を傾げていると、す、と蔵の腕が肩に伸びてきて、そのままぎゅうと抱きしめられた。

「ちょ、く、蔵、離して、」
「ヤダ」

現在進行形で続行中の障害物競争。
その選手たちに観客の注目が集まっているとはいえ、ここは学校。
そして全校生徒がグランドに集まってる状況な訳で。
そんな中で身動きも取れないくらいきつく抱きしめられるという状態が恥ずかしくて、抗議をするも、蔵にそれを聞き入れる気は全くないらしい。

「何で、」
「やってこうでもせえへんときっと、観客席の奴らわからへんやろ?」
「わからないって何が?」

蔵の言いたいことがよく理解できなくて、肩ごしに蔵を見上げると、にっこりと口元だけに笑みを浮かべた蔵と目が合って。

どきっとしたのも束の間、音もなく顔を寄せ。

ほんの一瞬。
ほんの一瞬だけど唇が触れ合った。

「〜〜〜〜っ!?」
「安心しぃ。誰にも見えへんようにしたから」

咄嗟のことに頭が上手く回らなくて、言葉の代わりに蔵の腕の中でもがいて反抗すれば、蔵が宥めるように頭を撫でる。

「それに、これでたいていの奴らはわかってくれたやろ」
「だから何を……!」
「ん?せやから、」

――ひなが俺のモンやってこと。

耳元で囁かれた低い声に、体育祭の熱気とは別の意味で体が熱くなった気がするのは気のせいじゃない。






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