「なんや、ぐったりしてるけど大丈夫?」

ドライヤーを当て、わしゃわしゃとタオルで濡れた毛並みを拭きながら来栖が尋ねてくる。

「もしかしてのぼせたんかなぁ」

水でもあげたほうがええんやろかっちゅう声を聞きながら、心ん中でちゃうちゃうと答えておく。

あれから来栖家に強制連行された俺は、夕飯(=鰹節ご飯)を頂いた後、あろうことか来栖本人に風呂場に連れ込まれてシャンプーされたんや。

来栖が俺を目の前にして着替え始めるのを見て、慌てて逃げようとしたが脱衣所に鍵がかけられていたためそれは叶わんかった。
しかたないのでされるがままになっとったんやけど、俺かて健全な高校生男子。
正直、好きな女の子とお風呂というのは、猫の姿でもどきどきしてしまう。
しかも彼女を見ないように目を瞑っていたのを、水が怖いんやと勘違いされ、抱きしめられながら湯船に入れられてしもたあの時は、ホンマ頭に血が上ってくらくらしとった。

ちゅうかこんなことしとった相手が、実はクラスメイトの一男子やって知られたら、俺、来栖に軽蔑されてしまうんやないやろか。
元に戻れる可能性がどんどん遠退いていっている気がする。

「ふにゃぁ〜(はぁ〜)」
「熱かった?」

重苦しい溜息を漏らすと、来栖が慌ててドライヤーを止めて訊ねてくる。

君のせいやないよ。
そう伝えたくて、にゃあ、と鳴いて尻尾で2回机を叩く。

「平気なん?」

肯定の意を示すため、にゃんっ、と鳴いて、今度は尻尾で机を叩く回数を1回に変える。

「ホンマ不思議なにゃんこやねぇ。ウチの言葉、全部わかってるん?」

これは肯定するわけにはいかないので曖昧に、なーぁと答えておく。

「ま、そんなはずないわな」

来栖も冗談で言うただけやったらしく、再びドライヤーを止めると優しい手つきで俺の背中を撫でた。

「よし、綺麗になったなー」

完全に俺の毛並みが乾いとるんを確認すると、そのままひょいっと抱き上げられた。

ふわり、と薫るシャンプーの匂いに鼓動が速くなる。
この時ばかりは猫で良かった、とまで思うてしまうあたり、俺も思春期真っ盛りなんやな。

自分の状況を冷静に分析しとったら、来栖がとんでもないことを宣った。

「今日はウチと一緒に寝よか」

自分毛並みさらさらで気持ちええし。


にっこりと笑う彼女の腕の中で暴れてみるも、この姿では大した抵抗にもならず、来栖は「猫のクセに照れとるん?」と俺を抱きかかえたまま布団の中に潜り込んでしまった。

あー、こないな状況眠れへん。
明日ちゃんと始業式に間に合うやろか……。
ちゅうか、それ以前に俺、いつ人間の姿に戻れるんやろか……。

あぁもう色んなことがありすぎてホンマどないしたらええんやろ。





-7-

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