にゃー。
なー。
ナ゛ー。
「にゃーん」
可愛らしいのからふてぶてしいのまで、至る所でよりどりみどりな猫の声。
その中で人間による猫撫で声で鳴きまねをしとるんが、俺の彼女の暁。
普段のしっかり者の彼女はどこへやら、何匹もの猫に囲まれて喜色満面の笑みを浮かべとる。
バレンタインのお返しに、暁が最も喜ぶことをしよう。
そう考えて思い付いたんが、ふれあい動物園でのデートやった。
無類の猫好きな彼女が喜ぶ姿を見られたら、俺も嬉しいし。
せやけど、何やろう。
予想通り、暁はめちゃくちゃ楽しそうなんに、俺は全然楽しくない。
それどころか、少しばかり苛々する。
「蔵ノ介ーっ」
思考に耽っとった俺を、暁の声が呼び戻す。
「なん?」
不機嫌さを隠して、彼女の傍に行くと、眼前に突き付けられる1匹の猫。
「なぁ、このコ、にゃんのすけに似てへん?」
「……あぁ、言われてみれば確かに」
彼女の腕の中におる猫は、茶毛の細身。色合いは違うけれど、サイズやシルエットはにゃんのすけ、つまり猫になっとった時の俺に近い。
「かわいーっ」
むぎゅっという音が聞こえそうなくらい、おもいっきしその猫を抱きしめる暁。
それを見た瞬間、俺の中で何かが弾けた。
「っ!あの、ちょ、蔵ノ介っ、何を……!?」
抱き抱えた猫はそのままに、俺の腕に閉じ込められとる暁は、真っ赤な顔を上向けてこっちを見とる。
「何って暁をぎゅうっとしとるだけやん」
「だけ……って、」
今この場には俺ら2人だけ。
せやけど、いつ他の誰かが来るかわからへん状況でいちゃいちゃするんを、暁は嫌う。
やから、今もどこかそわそわしとる。
我ながら意地の悪いことをしとると思う。
せやけど、さっきまで刺々しかった心が穏やかになったのも、また事実。
やって暁の瞳が、漸く俺を映してくれたから。
彼女が茶毛の猫を抱きしめた瞬間に悟った苛立ちの原因。
それは暁が猫ばっか構っとることに対する嫉妬やった。
「猫にヤキモチ妬くとか、どんだけ心狭いねん、俺……」
「何か言うた?」
重い嘆息を吐くと、暁がきょとんとした瞳を向けてくる。
ホンマのことを知られるんは恥ずかしいから、何でもないと誤魔化して、彼女の身体を離す。
「それより、他のところも見て回らん?そろそろプールでイルカショーもやるみたいやし」
「ホンマ!?行こ行こっ!」
「おん」
猫を降ろした彼女の手を取り、ふれあいコーナーを後にした。
Little Bitter Whiteday
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