今日は2/14。
ウチと白石が付き合い出して、初めて迎えるバレンタイン。

今まではは義理チョコしかあげてなかったけど、今年は何せ彼氏サマ。
市販のチョコじゃ味気ないから、昨日大慌てで帰宅して、レシピ片手に、悪戦苦闘しながら、ガトーショコラを焼いてみた。

喜んでくれるやろか。

「白石ーっ」

ささやかな期待をこめて、教室のドアをくぐったばかりの白石を呼び止める。

「おはよ、来栖。どないした?」
「えーっと……」

渾身の作を求めて、鞄の中をがさごそ漁る。

「ちょお待っとって……」

がさごそ、がさごそ。

「あれ……?」
「来栖?」

まどろっこしいので、鞄の中に顔を突っ込むも。


……ない。

頑張って作ったガトーショコラの影も形もまるでない。

まさかの

チ ョ コ わ す れ !!

知らず知らずのウチに張り詰めていた緊張の糸が、ぷつりと切れた。

「うぉっ!?」

軟体動物よろしく、ふにゃふにゃと魂が抜けたウチをみて、白石が奇声を発した。

「ど、どないしたっ!?」
「………………た、」
「?」
「家に、チョコ、忘れた……」

自分の情けなさに涙が溢れる。
小さくごめんと謝ると、白石は苦笑を浮かべ、ぽんぽんと頭を撫でてくれる。

「俺にくれるんやったん?」
「おん……」
「なら、帰りに来栖んち寄ってもええ?」
「え゛っ!?」

思わぬ申し出に、二の句が継げへん。

「心配せんでも、チョコ貰いに行くだけやで?」
「や、心配っちゅうか、寧ろ申し訳ないっちゅうか……」

白石とウチとでは、帰る方角が全く違う。
仮にもプレゼントなんやから、渡す相手にご足労願うんは筋違いな気がする。

「俺が行きたいんやから、気にせんで」
「やけど……」
「その方が来栖と長く一緒におれるし、な?」
「……わかった」



***



結局、ウチが白石に折れる形で、一緒に帰ることになった。

「来栖、」

ごく自然に差し出される手。
それを躊躇なく握り返せるようになったのは、つい最近のこと。

「ごめんね、白石。わざわざこっちまで来て貰て……」
「気にせんのって言うてるやろ?俺が好きで来てるんやから」

左側を歩く白石を見上げると、困ったような笑顔を向けられる。

「せやけど……」

やっぱり申し訳なさは拭えなくて、尚も言い募ろうとしたウチの頭をくしゃくしゃと撫でる白石。

「そんな気になるんやったら、俺のお願いきいてくれへん?」
「お願い?」
「おん。それでチャラにしよ」

白石の提案にこくりと頷くと、彼は柔らかく微笑む。

一体どんなお願いやろか。
できれば難しくないのがええんやけど。

「大丈夫、めっちゃ簡単やから」

ウチの心を見透かしたような言葉にドキっとする。

「白石、因みにどんなお願い?」
「えーっと……名前、で呼んでくれん、かな?」
「名前?」
「おん。蔵ノ介って」

気恥ずかしそうに、僅かに色づいた頬を掻く白石。

やば、何やドキドキしてきたんやけど。

「く、蔵ノ介……?」

妙な緊張感の中、彼の名を口にすると、不意に身体が傾いて。
それに驚く間もなく、白石の腕の中におさめられとった。

「おおきに……、暁」

耳元で囁くように呼ばれた名前。
反射に近い速さで顔を上げると、照れたように笑う白石の顔があった。



Happy Valentine






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