「魔法で猫に……?んなアホな」

電話の向こうの謙也に、思わずツッコんでしまうほど、突拍子もない単語が聞こえ、ウチは自分の耳も疑った。

『信じられんのは百も承知やっ!せやけど、人命かかってんのやっ!っちゅうわけや、頼む暁、何としてもにゃんのすけ……、もとい、白石を探してくれ』
「は?ちょ、謙也、ま……っ!?」

ウチの制止も聞かず、切羽詰まったふうな謙也との通話が切れる。

「……『魔法』やなんて、あり得へんやろ」

謙也曰く、「誤って魔法の薬を飲んでしまった白石は、日が暮れると猫になる」らしい。

お伽噺の世界やあるまいし、そんなん今時、小学生のお子様だって信じやしない。
しかも、化ける姿を他人に見られると、元に戻れんとか、ウチかて正直、タチの悪い冗談やとしか思えへん。

せやけど、あの時直前までウチと一緒にいたはずの白石は、一瞬にしてあの場のどこにもおれへんようになって、代わりに白石の髪と同じ色をした猫が一匹、残されとった。
それに、クラスの出し物の練習が遅くなると、最近の白石はずっとそわそわしとった。
それも「日没前に帰宅せなあかんから」と考えれば、しっくりくる。
第一、人ひとり行方不明になっとるような非常事態に、謙也がそれを茶化すような嘘はつかん。

俄かに信じがたいけど、状況は全て、謙也の言う「魔法」を信じんことには辻褄が合わんようになっとる。

「だぁーっ、もうっ!」

考えれば考えるほど訳がわからんようになってくる。

「とりあえず、にゃんのすけを見つけんことには始まらんわ」

すっかり陽も落ちて、うすら寒くなってきた。

このまま放っておいたら、にゃんのすけにせよ、白石にせよ、風邪をひいてまう。

お伽噺の世界で、悪い魔法をかけられた王子を救うのは、村娘の役やった。

ウチは、美人でも何でもないけど、少しでも力になれるのなら。

意を決して、にゃんのすけが逃げてった方へ向かって走り出した。





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