「にゃぁ〜(はぁ)……」
やってしもた。
後悔の念が押し寄せる。
だんだんと日没が早まってたんに。
来栖と少しでも長く一緒にいたくて、遅くまで稽古に付き合うたり、一緒に帰ろうとした挙句がこれや。
自分でヒトの姿に戻れんくしてしもうた。
これから、どないしよ。
公園のベンチに座って、ひとり途方に暮れとると。
「あっ、いたーっ!」
聞きなれた声。
振り向けば、息を切らした来栖が駆けてくる。
咄嗟に逃げようとしたけれど、俊敏な彼女から逃れることはできずに、ぎゅっと羽交い絞めにされた。
「ごめん、白石……」
冷たい雫と共に降ってくる沈んだ声。
『にゃんのすけ』やなく、苗字を呼ばれたことに驚いて身じろぎすると、彼女も俺の疑問に気付いたんか、謙也から全部聞いたと答えが返された。
「ウチのせいや……、白石を遅まで付き合わせてしもたから……」
来栖のせいやないよ。
そう伝えたくて、泣きじゃくる彼女の涙を舌で掬う。
俺がこの姿になってしもたんは、俺が欲を出したから。
タイムリミットを忘れて、来栖と一緒にいたいと思うてしもたから。
せやけど、言葉が通じんせいか、彼女には伝わらんらしく、一向に来栖が泣きやむ気配はない。
ちゃんと人間やったら、こういう時、来栖を抱きしめてやれるのに。
何度感じたかわからんもどかしさ。
そして、それはもう決して叶わない願い。
関係者以外の人間に、猫になることを知られてしまったら、もう人の姿には戻れない。
目の前で、好きな子が泣いとんのに、何もできひん。
それが、余計に切なさを募らせて、胸を締め付ける。
「ウチがあん時、引き留めてしもたから……っ!」
嗚咽する来栖の言葉に、ふと疑問が浮かぶ。
そういえばあの時、彼女は何を言おうとしとったんやろう。
「にゃあ(なぁ、来栖)」
猫語で呼びかけて、彼女の注意をひく。
「なん?」
『あのとき なに いおうと してた?』
ベンチの下の砂地に、尻尾で文字を書くと、彼女は電燈の下でもわかるくらい、顔を赤く染めた。
「白石の、気持ち、に、答えようと、してん……。ウチも、好き、や、って……」
しどろもどろになりながら答えてくれた来栖。
俺が何よりも聞きたかった言葉やけど、今の俺には哀しく響く。
「ごめん、ウチがもう少し早よ言うてればよかったんよね……」
そっと両手が伸びてきて、地面からふわりと宙に浮いた。
再び来栖の香りに包まれて、彼女の苦しげな嗚咽が耳元で聞こえる。
その涙を止めたいのに。
どうすることもできひん自分が情けなくて、もどかしくて。
来栖の腕ん中で、自分の情けなさに視界が滲んだ。
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