「白石、堪忍な」

片付けを終えて、校舎を出た時には既に17時近くになっとった。
藤吉郎祭の準備を始めたころは、まだ明るかったこの時間帯も、既に太陽は地平線の向こう側へと隠れ始めていた。

何か用事があるんか、いつも早めに帰宅したがっとった白石を、ウチのせいで結局遅くまで付き合わせてしまったことに謝ると、白石は気にせんの、と、ウチの頭をぽんぽんと撫でる。

白石に触れられた部分が、柔らかな熱を帯びた。

あぁ、ホンマに。
ウチは白石のことが好きなんや。

昨日謙也に諭されたおかげで気づいた、自分の気持ち。
自覚をすればするほど、膨らんで、大きくなる。

「……何や、来栖?俺の顔になんかついとる?」
「う、ううんっ、何でもないっ、」

白石を凝視したまま固まっとると、目の前でひらひらと振られる掌。
苦笑した白石と視線が合うと、気恥ずかしくてぱっとそらした。

……アカン。
こんなんじゃ、告白どころやない。

バクバクと異常なまでに速い鼓動が、体中に響いて煩い。

ウチ、今までみんなにこんなんやれって勧めてきたんやな……。我ながら、無責任に告白したらって言い過ぎたんちゃうやろか。
いざ、自分がしようとすると、ホンマに死んでまいそうな気分。

自分が見つけた答えを伝えようとしとった朝の勢いはどこへやら、思い悩むうちに、いつの間にか、白石との岐路に着いてしもた。

「俺、こっちやから」
「うん」
「明日また頑張ろな?」
「うん」

その交差点で、ほな、と手を振る白石。
す、と踵を返す動作を漫然と見送るしかできひん。

アカン。

そんなウチを脳の冷静な部分が止めようとする。

言うって決心したんやろ。
白石をどれだけ待たせとると思うとるん?

「待ってっ、」

自分の心に叱咤されて、固まっとった手足が動いて、白石ので学ランを引っ張った。

「なん?」

困ったように首を傾げる白石。

目が合うと、やっぱり緊張が勝って、喉が押し潰されたように苦しくなる。

せやけど、言わんと。

「あんな、ウチ……っ!?」

ぼふんっ!

意を決して、白石にウチが出した答えを伝えようとした、その瞬間。
目の前が白い煙に覆われた。

「げほ、ごほ……っ、白石、だいじょう、ぶ……?」

手で煙を追い払えば、意外にも簡単に開ける視界。
せやけど、そこにいたのは白石やなくて。

「にゃんのすけ……?」

ミルクティブラウンの毛並の猫は、ウチの視線に気づくと全速力で逃げ出した。

「あ、ちょ、にゃんのすけっ!」

とっぷりと日が暮れた交差点に、白石の姿は見当たらなかった。





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