「おはよー」
「おはようっ」

学校祭が近づいていることもあって、いつにもまして活気づいとる朝の昇降口。
そん中でウチはただひとり緊張しとった。

「……暁ちゃん」
「なん、奏?」
「手足が一緒に出てるよ?」
「ぶはっ、」

それはもう、謙也と一緒に登校してきた奏(と書いてボケ担当と読む)に冷静にツッこまれるくらいには。

「謙也うっさい、笑わんといてっ!」

それを見て盛大に噴き出した謙也に、拳を振り上げると、タンマタンマと頭を庇う。

「……ちゅうか暁、実際大丈夫なんか?そんなんで白石とマトモに話せるん?」
「それも言わんといてっ!」

心を平静に保とうと、あえて考えんようにしとったんに、謙也が小声で余計なことぬかすから、尚更緊張してしまう。

「朝っぱらから騒々しいなぁ」

その緊張をどうほぐそうかと思っていたさなか、柔らかな低音が響く。

「あ、白石君。おはよー」
「おぅ、白石」
「石蕗さんに、謙也。おはよーさん」

気軽に挨拶を交わす2人とは違って、ウチは声を聴いただけで体がカチコチ。

「来栖も、おはよーさん」
「お、おは、おはよっ、」

そんなウチを知ってか知らずか、白石は、いつも通り挨拶をしてくれる。
それに対して、ウチはというと、普段通りどころか、緊張が先だってどもりまくりで、明らかに怪しい。

そんなウチを見て、白石は小さく笑った。

……ヤバ。

どこか困ったような、それでいて柔和な微笑みを浮かべた白石と目が合うと、胸がぎゅっと締め付けられる。
この感じは謙也を好きやった時とホンマに一緒。
せやけど、心臓を掴まれるような感触はそれよりも強い。

「おーい、暁。ぼさっとしてんと、教室行くで」

いつの間にか、先に進んでいた謙也が、戻ってきてウチの目の前で掌を振った。

「……て、暁?大丈夫か?」

ぼんやりしたまま動かんウチを、心配そうに覗き込む謙也。

「……謙也」
「なん?」
「おーきに。昨日あんたに言われた通りや」

幼馴染のコイツに言われんかったら、ウチはきっとずっと白石への想いを否定しとった。
でも、謙也がウチの想いを認めてくれたから、ウチは自分の心に向き合うことができた。

「ウチ、やっぱ白石のことがす、」
「ストップ」

お礼を兼ねて自分で見つけた答えを報告しようとしたら、口元を手で隠される。

「その先は直接白石に聞かせたってや。そのほうがアイツも喜ぶはずやし」
「……おんっ!」

白石に告白されてから1週間。
ようやく見つけた答え。

今日、劇の練習がうまくいったら、伝えよう。
待たせて、ごめんて言うて。

白石、どんな顔するやろか。

放課後、起こりうるであろうことを想像すると、昨日までは憂鬱でしかたなかった出し物の練習でさえも待ち遠しく感じた。





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