「やっぱし無理やっ!」

放課後。いつも通り劇の練習。

自分では、白石への想いを認めたら上手く行くかと思うてた娘役やけど、結局、自分の気持ちを認めたことで、更に白石を意識してしまい、劇の最後の台詞がどうしても言えへんかった。

そのため、今日も今日とて白石と2人、ユリの指導の下猛特訓を強いられるハメになってしもた。

「……わかった、こうなったら最終手段や」

そして、1度も成功できひんまま本番2日前の最終下校時刻を過ぎてしまった。
青筋を立てたユリが重苦しい溜息を吐く。

「暁」
「はい」
「あんたの『愛してるわ』っちゅう台詞はカットでええわ」
「ホンマ!?」
「その代わり!劇中で白石とキスして貰うから」
「はいっ!?」

ユリが提示した最終手段には、白石も驚いたらしく、ウチみたいに声こそ発しなかったものの、切れ長の瞳が僅かに見開いた。

「ちょ、ちょちょ、ユリっ。キスて、あのキスやんな?」
「魚の鱚でないことは確かやで。ちゅうか学内のキューピッドがたかがキスに何狼狽えてんねん」
「せ、せやけどっ」

学校内で何と呼ばれてようと、ウチにとってはファーストキス。
しかも、相手は白石。
これで狼狽えへん訳がない。

「まぁ、死角を利用して、しとるフリして貰うだけやから、安心しぃ」

かかかっと豪快に笑うユリの言葉に、ほっとしたような残念なような複雑な気分になる。

……白石は、どうなんやろ。
好きやと言われたけど、ウチが何の反応も返さんからか、常に至って普段通り。

今のをどう思うてるか知りたくて、教室の後ろの壁に背中を預けとる彼の顔を、肩ごしに伺うが、薄暗くなってきたせいもあって、上手く表情が読み取れんかった。

「ほな、明日はクラスメイト全員の前でその練習して貰うから。白石君もそのつもりでね」
「おん」
「ほな、今日は解散っ!」

宣言し終わるや否や、ユリは脱兎のごとく帰って行った。





-50-

[]

back
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -