「……まさか。そんなん、あるわけないやろ」

謙也の言うたことを否定する声が、震える。

白石は、ウチにとって仲のええ男友達。
それ以上でも以下でもない。

ちゅうか、そんなことあったらあかんのや。

やって、ウチが白石に対して、謙也んときと似たような想いを抱いても、それはきっとアイツが優しかったから。
ウチが1番キツイ時に優しくしてくれたから。
白石がウチを好きやって言うてくれたことをいいことに、その優しさに甘えてしまう。
自分の傷を癒すためだけに。

「……そんなん、白石が可哀相や……」

ぽそり、と漏れた言葉を最後に、静かな沈黙が室内を支配する。

「……暁は優しいな」
「え?」

それを破ったんは謙也のほう。
謙也の言葉に顔を上げると、苦笑を浮かべとった。

「例え傷を癒すためだけやったとしても、好きなコ頼られれば嬉しいもんやで、男としては」
「せやけどっ、」
「暁は嫌なんやろ。そういう優しくて真面目なトコが暁のええトコやしな。せやけど、生真面目すぎても、逆に判断間違うで?」

謙也の言葉の意味を図りかねて首をかしげると、謙也は苦笑の度合いを深めた。

「暁さ、自分の白石に対する想いは恋やないって思うてるやろ」
「おん」
「せやったらさ、俺と居る時と、白石と居る時と、落ち着かんのはどっちや?」
「……白石」

告白されてからは特にそうや。
謙也と居るんはどうってことないんに、白石と居ると落ち着かんし、胸が苦しい。

「それは、俺んときに似とる?」
「…………うん」

ずっと否定してきたけど、白石に対しても、謙也を好きやった時と何一つ変わらない症状が起きてしまう

「ほら、それが好きってことやろ」
「せやけどっ!せやけど、まだ1週間しか経ってへんのに……」

何から、とは敢えて言わんかったけど、謙也にも意味するところは伝わったらしい。
そう、白石がウチに告白したんとおんなじように、ウチが謙也に好きと言ってから、まだ1週間しか過ぎてへん。

そんな短期間で抱く想いが恋なはずがない。

「でも、」

頑ななウチに呆れたんか、謙也が小さく息をついた。

「俺と居るより白石と居る方が落ち着かんのやろ?」
「おん、」
「俺はさ、人を好きになるのに時間は関係あれへんと思うねん。長い間一緒におって好きになる時もあれば、ひと目みて好きになるっちゅうことだってあるやん。せやから、白石に対して挙動不審になっとる暁は、ちゃんとアイツんこと好きなんやと思うで」
「そう……なんかな……?」
「それを確かめるためにも、1度自分の気持ち整理してみたらどないや?暁は変なトコで生真面目やからな、すぐには難しいかもしらんけど」

と、諭すような口ぶりで謙也が言った。

「……おーきに、謙也」

そうしてみるわ、と席を立つ。

まさか、謙也に恋愛ごとについて教授される日がくるなんて、思いも寄らんかったけど。

玄関先まで見送ってくれた謙也にそう減らず口を叩けば、あいっかわらずやな、と眉を下げた。

「ほな、おやすみ」
「おん」

謙也と別れて、自宅の玄関をくぐる。

それまでは、謙也と一緒に居ると息苦しくて、すぐ離れたなるんに、別れると言いようのない寂しさが押し寄せてきとった。
せやけど、今日はそれがない。

多分、それはウチがもう謙也を好きやないっちゅう証拠なんやろう。

逆に今会うと1番苦しいのは――……

「……よし」

明日きちんと白石と向き合おう。
この想いの意味を知るためにも。

そうひとり決意した。





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