「しっかし、木崎もようやるなぁ、こんな大根役者相手に」
「誰が大根や!ウチかてもうちょい演技できるわ!ホンマなら!」

それから、ジュースを持ってきた謙也に、居残り特訓の一部始終を話すと、謙也は豪快に笑ってさりげなく失礼なことを宣いよった。

「でも、できてへんやん」
「しゃーないやんか、相手が白石なんやもん!」
「何や、白石やと問題あるんか?」
「当たり前やんっ!やって……っ!」

謙也との口喧嘩につられて、1週間前の出来事を思い出してしもた。
それだけで、全身の血液が沸騰するくらいに恥ずかしいのに、それを言葉に出すなんてできんくて、思わず口元を抑えた……んやけど。

「あぁ、そか」

謙也が何かを思い出したかのように、わざとらしく手を打って。

「自分告白されたんやっけ、白石に」

ウチが言うのを躊躇っていたことを衒いもなく指摘しよった。

「ちょ、謙也言わんでよ!折角そのこと忘れて無心になれるよう頑張ってんのに!」

そして、1拍遅れて重要な事実に気が付く。

「って、何で知ってるん!?」
「まぁ、俺と白石の仲やし?」

意味もなくどや顔をする謙也の頭に、無言で手刀をお見舞いする。

何が、やし?やっちゅうねん!

「謙也、ウチが白石んこと気にせんようにするために、どれだけ労力使てると思うとるん?」

白石の事を意識してまうと、演技ができひん。
演技ができんと、ユリに文字通り抹殺されかねんっちゅうねん、こっちは!

「スイマセンデシタ」

恨みがましい視線を向ければ、謙也は素直に頭を下げる。

「白石からやって、フツーにしとれって言われたんに、全然フツーにできひんし……」

最近のウチはできるだけ白石に関わらんようにしとる。
多分、傍からみれば、ウチが意識的に白石を避けとるように映るやろうっちゅうくらい。
理由は簡単。
アイツの顔を見るたび、あの時のことを思い出して、どうしたらええんかわからんくなるから。

白石は宣言通りそれまで通りに接しようとしてくれとんのに。
ホンマ自分で自分がようわからん。

「……ちゅうかさ、暁」
「なんよ?」
「なしてそこまで白石を意識するん?」
「え、そりゃあ告白されたら、フツーやない?」

あの時までウチにとっての白石は、ただの男友達。
それ以上でも以下でもなかったんやから。

「告白されたらて……、好きや言われたらそれまでどうも思うてなくても惹かれるんか?」
「んー、どうやろ……」

首を捻るウチに、謙也は盛大な溜息を漏らす。

「やったら、暁。あの時の告白相手が白石やのうて、真壁やったらどないや?」
「……なしてそこで級長が出てくんの」
「例えばの話や、例えばの!別に真壁やのうても、知っとる男からなら誰でもええわ」

とにかく考えろっちゅう謙也に言われて、想像力を膨らませてみるも。

「あ、多分相手が級長ならぜんっぜん問題ないわ」
「他の奴らは?」
「それも全然」

実際に告白された訳やないから言えるのかもしれんけどなって笑うたら、謙也は急に真面目な顔をした。

「それはさ、やっぱし暁ん中で白石が特別なんとちゃうんか?」
「え……?」

ウチの中で?
白石が?


「暁、白石のこと好きなんやろ」


真っ直ぐこっちに向いた視線に射抜かれて、ウチの心の奥の何かが、音を立てて崩れ始めた。





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