それから、俺は大阪にある跡部製薬の支社工場に連れていかれて、簡単な検査を受けた。

「どうやら、あの薬の成分はものの見事にどっかに消えたようだな」

検査結果を見た跡部君が信じがたいと言わんばかりの表情をしとる。

「それはそうだよ。白石にかけられた魔法がとけたんだから」

当然のように言う幸村君に、俺だけやなく、乾君や柳君も驚きの混じった嘆息を漏らした。

「ちゅうか幸村君」
「なんだい?」
「なして、俺はもとに戻れたんや?」

今日の夕方までは全く事情を知らず、完璧にに部外者やった来栖。
そんな彼女に、ばっちり猫になった姿を見られてしもたんに。

「自分ら以外に見られたら、2度と人に戻れんのやなかったんか?」
「それは、僕にもちょっとわからないな。でも多分、彼女のおかげだと思うよ」

幸村君が視線を向けた先に居るんは、謙也と侑士君に囲まれて、顔を赤くしとる来栖。

「魔法は人の心に反応するからね。彼女の想いが君を救ったんだ」

だから、大切にしてあげなよ?

「……言われんでもわかっとるわ」

くすり、と微笑む幸村君に返して、来栖の方へ向かう。



「こーら、お2人さん」
「!」

背後から抱きしめて、来栖を忍足ズから引き剥がした。

「来栖をいじめるのはやめてくれんか」
「何や白石、つれへんなぁ。暁は俺の幼馴染やで?」
「ちゃうやろ侑士。“俺の”やなくて“俺らの”や」
「どっちもおんなじや。ええから、早よ来栖から離れや」
「へいへい。男の嫉妬は怖いなぁ、ケンヤ」
「早いとこ退散したほうが身のためやな、侑士」
「ええから、早よ散れ!」

調子に乗る忍足ズに、檄を飛ばして追い払う。

「ったく……。来栖、大丈夫やった?」
「うん……」

抱きしめられとるんが恥ずかしいんか、はたまた謙也たちにからかわれとった時の名残か、俯いた彼女は、耳まで赤く染めている。

その様が可愛くて、少し邪まな気分になるけど、理性でそれを抑えて、来栖の頭を撫でるに留めておく。

「白石は?もう大丈夫なん?」
「おん。来栖のおかげで無事、魔法は解けたみたいや」

笑顔で答えると、彼女もよかったと口元を綻ばせてくれる。

「でも、」
「なん?」
「少し寂しいなぁ」
「なして?」
「やって、にゃんのすけにはもう会えへんやん。ウチにとっての理想のにゃんこやったんに」

冗談めかして、「やっぱもう1度猫にならん?」なんて言いよる来栖に、ぎょっとする。

「それだけは、勘弁してや……」

いくら来栖の頼みでも、2度と猫にはなりたない。

本気で眉根を下げると、来栖は「冗談に決まっとるやん」とくすくす笑う。

「……来栖の猫好きみたあとやと、冗談に聞こえへんわ」
「ごめんごめん」

がっくしと肩を落とす俺の頭を、来栖が腕を伸ばして撫でてくる。

あぁ、ホンマ来栖には敵わへん。

せやけど、元来負けず嫌いな性格のため、いつまでもやられっぱなしは性に合わん。

「……そないなこと言うなら、」

もう1度彼女を抱きしめる腕に力を込める。

「来栖が寂しがる暇もないくらい楽しませたらなあかんな」

せめてもの意趣返しに、来栖の耳元で低く囁いたれば、彼女はびくりと肩を震わせて小さく、アホとだけ答えた。


――fin.






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