「――……し、白石っ!!」

耳元で名前を呼ばれて、目が覚めた。
何故か焦ったような表情を浮かべていた謙也が、目の前でほっと息を吐く。
ちゅうか俺なして寝てたんやろ。
確か謙也に冷蔵庫から好きな飲み物持ってきてええで、って言われてとりに行ったあたりまでは覚えてるんやけど。
それ以降の記憶が全くない。
確か目に付いた栄養ドリンクを手にしただけで、特に変なもん飲んだわけとちゃうし。
頭の上に疑問符が並ぶ。

「気がついたようだな」
「良かったわぁ、全然目ぇ覚まさへんからてっきり死んでしもたんかと思たわ」

偉そうな口ぶりと、謙也のものとは違う大阪弁。
声のするほうへ顔を向ければ、謙也の従兄弟で氷帝学園テニス部所属の侑士君とそこの部長の跡部君がおった。

(おぉ、お二人さん久しぶりやな!ちゅうか何で自分ら大阪におんねん。明日から学校始まるんちゃうん?)

片手を挙げて、挨拶をした俺の目の前で顔を見合す氷帝の2人。

「……おい忍足。なんて言ったかわかるか?」
「さぁ?さっぱりや。謙也は?」
「すまんが俺も無理や」

は?
何やねん、この反応!俺、今普通に話しかけたやんな、2人に。
別に宇宙語とか特殊な言葉を用いたわけやあらへん。
それなのに、なんやねん、言葉わからんって!

「2人とも久しぶり。なんで大阪にいるの。明日から学校始まるんじゃないのか……だって」

俺が口にしたことを標準語に言い換えてくれたんは、立海大附属の部長。

(幸村君も久しぶりやな!)
「久しぶりだね、白石」

ふふ、と品の良い笑みを浮かべて微笑む幸村君。
先ほどまでの2人とは違い、彼は普通に答えてくれる。

「それはそうだよ。今君の言葉がわかるのは俺ひとりだけだから」

……………は?
俺の言葉がわかるのが幸村君だけ?
益々頭がこんがらがる。

「だってしょうがないよ。今の君は猫なんだから」
(は?)

意味が分からず、あんぐりと口を開けた俺の目の前に置かれた鏡。
その中に映るのは、ミルクティー色の毛並みを蛍光灯の光に反射させている細身の猫。
ぽかんと口を開けて間抜けな顔を晒しとった。

(……これ、幸村君が描いた絵か?)

手の込んだ悪戯やな、と冗談めかして目の前の幸村君を見上げると、「やだな、白石。流石の僕でも動く絵は描けないよ」

これまた上品な微笑。

(……な、なぁ自分ら今日何月何日かわかっとる?エイプリルフールとちゃうねんで?)

幸村君の答えから俺の脳がはじき出した結論を否定したくて、言葉を紡げば、鏡の中の猫も同じように口を動かす。
そして頭に響く自分の声に被さるようにして耳に届くのは、猫独特のにゃんにゃんという鳴き声。

嘘やろ。

体中から一気に血の気が引いていく。
悪足掻きのように鏡に向かって俺が右手を挙げると、その動作にぴったり合わせて目の前の猫(心なしか青ざめているようにも見える)も左の前足を挙げる。

「どんなに確かめてみてもこれが事実で現実だよ。君は猫になってしまったんだ」
「にゃああああぁぁぁっっ!!?(はぁ―――っ!!?)」





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