「疲れた……、ホンマもう無理や……鬼ユリめ……」
さんざん劇の特訓をさせられた帰り。
謙也に呼び止められて、珍しく玄関からお隣さんちにお邪魔したウチは、謙也の部屋でテーブルに突っ伏した。
「暁、お疲れさん。口も渇いたやろ」
悪態を吐くウチに、謙也がジュースを持ってくる。
「なんや謙也、気ぃきくなぁ」
グラスになみなみと注がれたオレンジ色。
だいぶ肌寒くなっては来たけど、水分が欲しい時はやっぱり冷たいもののほうがええ。
「ぷはーっ、生き返るぅ」
「サラリーマンのおっちゃんか」
謙也の手からグラスを奪い取るようにして、喉を鳴らしてそれを飲み干すと、間髪入れずに呆れたようなツッコミが入る。
「ええやんええやん。ウチらの仲やし。ちゅうわけで謙也、おかわり」
「へいへい。人使いの荒い幼馴染やな」
謙也は苦笑を残して階下へジュースを取りに行った。
幼馴染。
謙也の口からその単語を聞いても、前ほど胸が痛まなくなっとった。
……少しは吹っ切れたんやろか。
謙也が出てった扉を見ながら、自問する。
もし、そうやったとしたら、きっとそれは――……
その言葉の先に浮かぶ、ミルクティブラウン。
少しざわついた心の意味に、気づかないふりをした。
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