「そう簡単にできひんわっ、アホーっ!」
「アホは自分やろ、このドアホっ!」
「でっ、」

俺が来栖に告白してから1週間が過ぎた。
間近に迫る藤吉郎祭を目前に、舞台発表を控えた俺らのクラスの練習にも、熱が入っている。
そんな中、来栖がちゃぶ台返しの要領で机をひっくり返さんばかりの勢いで雄叫びをあげると、間髪入れず、スパンっと小気味のええ音がする。

「暁、あんたがしっかりせんとこの劇台無しになるんやで?」

丸めた台本を握って仁王立ちするんは、今回の藤吉郎祭でやる『美女と野獣』の脚本家でもあり舞台監督でもある、クラスメイトの木崎ユリ。

全国大会にも出場したことのある演劇部の主舞台監督である彼女は、クラスの出し物でも、一切手を抜く気はないらしい。

「せやから、初めに言うたやんか、ウチにヒロインは無理やって」
「選ばれたんやから四の五の言わんで、真面目にやれっ!」

涙目になっとる来栖を叱る様からは、その心意気が伝わってくる。

「ほら、さっさと立って!もっかいやんで!」
「えぇ〜っ!」
「えぇ、やのうて!娘と王子の再会シーン、行くで!」

どこから取り出したんか、木崎がカチンコを鳴らす。
それを合図に再び劇の練習が始まった。

「『ビースト!』」

魔女に定められた期限までに、真実の愛を得ないと死んでしまうっちゅう呪いを掛けられた野獣(俺)。
里帰りしていた村娘(来栖)の戻りが遅く、その刻限が迫っていたため瀕死の危機を迎えてたとこに、彼女が帰ってくるシーン。

「『ごめんなさい、私が帰らなかったせいなのね……』」
「『どうか許して……。誰よりもあ……ああ、』ってやっぱ無理やぁっ!」

眠る俺の傍に跪いて途中まで台本通りに台詞を言うたんやけど、結局最後の見せ場直前で、来栖は教室から逃亡した。

「こらーっ、逃げるなやっ暁!ちょお、誰でもええから、暁を捕まえてきてっ!」

木崎さんの鬼気迫った形相に、周辺におった男子が駆けだす。

「……ちゅうか暁が演技できひんの、自分のせいやろ、白石」

その様子を傍観しとった俺の傍らに村娘の父役になった謙也が座り込んだ。

「あぁ、まぁな……」

多分、俺が告白したりせんかったら、来栖は俺の事なぞ意に介さず、フツーに演技できてたはずや。
その点に関しては来栖に申し訳ないことをした。

「……そういう割には、嬉しそうな顔しとるで、自分」
「そうか?」
「そうや。全く、他人が困っとんのに嬉しそうってどんな悪役やねん」
「別に、そういう訳やないで?」

確かに来栖には悪いことをしたと思う。
せやけど、彼女が今困ってる……、演技ができひんのは俺を意識してくれとるっちゅう証拠でもある。

「好きな子が少しでも意識してくれるようになって喜ぶんは当然のことやろ?」
「……白石」
「なんや?」
「自分、結構Sやな」

謙也にさも当然と言わんばかりの顔を向ければ、呆れたような嘆息とそんな言葉が返された。





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