(っちゅう訳や)

夜。
猫になった姿で、謙也んちを訪れて、昼間の経緯の一部始終を話した。

「……なんや、えらい思い切ったことしたな」

微妙に暗い顔した謙也が、僅かに目を見開く。

(まぁ、俺かてあないな時に言うつもりはなかったんやけどな)

来栖がずっと謙也に縛られとるんが、無性に悔しくて。
つい、押し隠してた想いが口をついてしまった。

来栖には悪いことをしたと思う。
落ち込んでるとこに、余計な混乱を招いてしまったんやから。

(なぁ、謙也)
「なんや?」
(来栖にけじめ、つけたってや)

来栖は新しい恋をすれば忘れられるかも、なんて言うてたけど、その前に区切りをつけへんことには、それさえもできひんやろう。

俺が、謙也に敵う訳ないって思いながらも、ずっと来栖を想い続けてるんと同じように。
心を寄せてる本人から、終止符を与えられん限り、きっとこれから先も不毛な感情を抱き続けてしまうんや。

「……言われんでもわかっとるわ」

むすっとした、せやけど、何かを決意した強い眼差し。

そして、謙也が驚きの速さでメールを打って送信すると、すぐにド派手な色したそれが、きらきらと輝いて、メール着信を知らせた。

それと同時に、窓の外でからからという音。

「ちょっと行ってくるわ」
(おう)

謙也が窓を開けると、猫になった俺を手渡す時みたいに、隣家のそれから顔を覗かせる来栖。

彼女がひょいひょいと手招くと、謙也はひらりと、来栖の部屋へ飛び移った。





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