「ここでええよ」

結局断りきれずに、自宅近くまで白石に送って貰てしもた。
申し訳ないから、せめて家に上がって貰て、お茶でも出そうとしたら、「それはあかん」と拒まれた。
理由を訊ねたところ、「家族が出かけとるうちに、女の子の家にあがるんは気が引ける」かららしい。
授業サボるんは堂々としとったくせに、変なとこで律儀なヤツや。

「ほな、ちょっと待ってて」

涼しい風が吹くようになったとはいえ、まだまだ太陽が燦々と降り注ぐこの季節。
遠回りして消費した分の水分だけでも補給して貰おうと思て、玄関先で冷えた麦茶をごちそうする。

「おおきに。喉が生き返ったわ」
「こちらこそ。わざわざ送って貰て、おおきに」

白石から空いたグラスを受け取って、家の中に入ろうとすれば、視界の端に映るお隣さんち。

「……気になるん、謙也のこと?」

僅かに動きが止まったことを、聖書男は見逃してはくれへんかった。

「そりゃ、気にならんちゅうたら嘘になるわ」

もしかしたら、いつかは。
そんな万の一どころか億の一もないくらいのの可能性にかけて、ずっとずっと好きやった。その気持ちは、やはりそんな些細な可能性さえもないってわかったところで、簡単に拭い去れるもんやない。

「一途なんやな、来栖は」
「まぁね」

呆れたような顔をした白石に、苦笑を返す。

「せやけど、もう忘れなあかんよね」

ウチの想いは謙也を困らせるだけ。
なのに、捨てきれんっちゅうジレンマ。

ホンマ、どないしたら綺麗さっぱり忘れられるんやろう。

「……新しい恋でもできたら、これもええ想い出になるんかな……」
「やったら俺は?」
「え?」

ただ漠然と考えとったことが思わず口を吐いただけやった。
だから、白石から言葉が返された時、思わず訊き返してしもた。

「謙也のこと、忘れたいんやろ?アイツの代わりに、俺やったらあかんのん?」
「は?」

こないな時に言うんは卑怯かもしれんけど、という前置きの後に聞こえた言葉は。


「俺は来栖が好きなんや」


真剣な顔をした白石。
せやから、これが冗談なんかやないっちゅうことはわかる。

せやけど、白石の告白はあまりにも予想外で。
言葉の意味を解するのに、かなりの時間を要してしまった。


「えぇっ!?」

そして、思わず叫ぶ私に、白石は「そない驚かんでもええやろ」と苦笑する。

「なんや、ホンマに全然気づいてへんかったんやな」

傷つくわー、と冗談めかす白石に、思わずごめんと謝った。

「俺かて、人間やで?好意を抱いてへん相手に、ここまで親身になったりせんよ」

さらっととんでもない発言をかまして、白石はぽんぽんとウチの頭を撫でる。
そして、混乱のあまり、ただ目を白黒させるだけのウチに対して、柔らかな笑みを向けて。

「答えを急かす気はないから、来栖が納得するまで考えてくれればええよ」

困らせてしもて、堪忍な。

そう言い残して、立ち去って行った。





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