それから暫く白石とは他愛のない話ばかりしていた。
せやけど。

「……あのさ、来栖」
「なん?」
「目、泣き腫らしとった理由、訊いてもええか?」

そう訊ねられた瞬間、一瞬だけ息が詰まった。

「勿論、話したなかったら無理して言わんでええから」

それを見逃さなかったんか、白石は頭を撫でながら柔らかな口調で言うてくれる。

「ええよ。話す」

白石の手が乗った頭を振って、その申し出を断った。
やって、ウチのことを心配して、サボりに付き合うてくれてる白石には、事情を知る権利があるやろうから。



***



「……そうやったんや……」

昨日の出来事を、洗いざらい白石に話すと、少し驚きが滲んだ相槌が返された。

「おん。……ホンマ、今思い返せばウチなしてあないなこと言うてしもたんやろ」

一晩中泣いて、今朝謙也と顔を合わせて、気まずくなって。

怒りにまかせて、あんなこと言わなければよかった。
奏に敵わんことくらい、初めからわかってたんに。

そういう後悔の念ばかりが、胸に募る。

「あんなん言うたところで、謙也を困らせてまうだけやんにな……」

自嘲気味に笑えば、ふわりと温もりに覆われる。

「……来栖は、優しすぎや」

耳元で響く、白石の低音ボイス。
それで、漸く抱きしめられていることに気が付いた。

「そないに相手のことばっか考えとったら、自分が参ってしまうで?」

もっと自分を甘やかしや。

白石の言葉に、抑え込んでた涙が再び溢れ出す。

「よう、頑張ったな」

よしよし、と背中を擦ってくれる手。
それが余計に箍を外して、ウチは、白石の前で2度目になる大泣きをした。





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