「おはよーっ!」

学校最寄のバス停前に着くと、ぽつんとひとり佇む奏がおった。

「今日は暁ちゃんも一緒なんだね」
「あ……」

眩しい笑顔を浮かべる奏に対して、返答に困る。

そっか。ここが待ち合わせ場所。

「って、あれ……?2人ともなんかあった……?」

ウチと謙也を包む空気を察したんやろう。
奏が眉根を寄せてしゅんとする。

「や、特に何もないで?なぁ謙也?」
「せ、せやっ!奏の気のせいとちゃう?」
「ならいいんだけど……」

機転を利かせて誤魔化せば、案外すんなりと騙されてくれた。

安心したような、虚しいような嫌な感じが胸に残る。

ちゅうか、こんなんウチが空気の読めへんお邪魔虫みたいやん。

仲睦まじげな2人の少し後ろをついて学校へ向かいながら、胸中に渦巻き始める捻くれた感情を殺そうと心掛けるのに必死やった。

「おはよーさん」

せやから、肩を叩かれるまで気づかなかった。
白石がウチの隣に並んどったことに。

「あ、白石……」
「目、赤いな」

心配そうな眼差しを向けて、ウチの目元に長い指で触れる。

「ちょっと待っとって」

ウチが適当な言い訳を述べる間もなく、白石は前方の謙也たちを追っかけて、謙也と一言二言言葉を交わした後、すたすたと戻ってきた。

「ほな、行こか」

す、とウチの手を握って、昇降口から校門へと元来た道を引き返す。

「ちょ、白石、チャイム鳴ってまう、」
「そんなん気にせんと。今日はサボりや」
「えぇっ!?」

爽やかな笑顔でとんでもないことを宣う白石に、驚きを隠せない。

やって、あの聖書白石が。
成績優秀、品行方正。
まさに高校生の鑑や言われとるあの白石が。
生徒教師の別を問わず人気者の白石が。
堂々とサボるやなんて誰が想像できるやろか。
いや、まぁ、以前にサボりを勧められたことはあったけど、てっきり冗談やとばかり思うてたのに。

ウチが戸惑っている間に、白石は平然とした表情でウチを校外へと連れ出した。





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