(これで、ええ、やろ……っ、)
泣き疲れてそのまま眠ってしもた来栖の肩に、ブランケットを掛けてやる。
猫の姿で、大判のブランケットを引きずるんは思ったよりも重労働で、自分でも驚くほど息が上がってしまった。
(とりあえず、事情把握や)
来栖が何故、あれほどまでに泣いていたのか。
原因である謙也に話を聞くため、猫の前足で窓を開け、隣接する謙也の部屋を確認する。
(こっちの窓は、開いてへんなぁ……)
灯りはついとるから、部屋にはおるんやろうけど。
来栖がやっとるみたいに、軽いモノを投げて、窓をノックできればええんやけど、如何せん猫の力では、そんなに遠くまでは飛ばせん。
(しゃーない。正面のベランダに回るか)
ひらり、と僅かに開けた窓の隙間から宙に身を躍らせて、塀の上に着地する。
でもって、謙也んちの庭の木を登って、ベランダに飛び移れば、やけに暗い表情をした謙也が出迎えてくれた。
(どないしたんや、謙也?)
俺を迎え入れるなり、窓に凭れてずるずると座り込む謙也に訊ねる。
「……白石……。俺、サイテーやわ……」
(急にどないした?)
「ずっと一緒におったんに……、暁んこと何もわかってへんかった……」
(……来栖と何があったん?)
そう訊ねると、謙也は沈みきった声で、来栖に俺との交際を勧めたこと、そしたら来栖が怒ったこと。
そして、泣きながら告白されたことを話してくれた。
「今なら、前、自分に引っ掻かれた理由もわかるわ……。アイツの気持ちも知らんと、恋愛相談持ちかけるなんて、俺はホンマの大馬鹿もんや……」
(謙也……)
来栖を泣かせたんがホンマに謙也やったら、一喝したろと思うてたんに。
ここまで落ち込まれると、逆に何も言えんくなってしまう。
「白石も、スマン……。俺、かなり無責任なことばかり言うとった……」
(もうええわ。すんだこと気にしてもしゃーないやろ)
「……おおきに。……なぁ、白石。俺が訊くんも何やけど……、これからどないするん?」
(これからって?)
「……どないして人に戻るんやっちゅう話や」
(……跡部君らが、元に戻れる薬開発してくれるんを大人しゅう待つわ)
まぁ、元からそのつもりやったんや。
来栖と付き合ってからどうのっちゅう望みはゼロに等しいことはわかっとったんやから。
そう自分に言い聞かせるけど、それでもちくりとした痛みが胸に刺さった。
-33-
[
≪|
≫]
back