「…っく、ぅぐ、……っく、」

止まない雨が、猫の毛並を湿らせる。
来栖んちを訪れるなり、俺は彼女に羽交い絞めにされて、部屋まで連行された。

苦しい、と抗議しようにも、啜り泣く彼女を見るとそれはできひんくて、なすがまま今に至る。

「ど、して、言っちゃ……、っく、謙也、悪、」

途切れ途切れの言葉の端々。
それらから察するに、今日の帰り、謙也と一悶着あったらしい。

人の姿やったら、彼女に理由を訊くこともできるが、鳴くことしかできひんこの姿では、来栖と会話することさえも難しい。

もう何度目になるやろう。
この姿になって歯痒さを感じるんは。

せめて、来栖に泣き止んで欲しくて、とめどなく頬を伝う雫を舌で掬いあげる。

「……慰めてくれるん?にゃんのすけ」

泣き腫らした瞳が、こちらを向く。
力なく笑う来栖は、普段の彼女とは似ても似つかんくらい別人に思えた。

「ホンマ、あんたは猫にしとくんが勿体ないくらいええコやね……」

ぎゅうと抱きしめられた耳元に、再び伝わる嗚咽。

尚も泣きじゃくる来栖の姿に、心臓を潰されたかのような苦しさを覚える。

俺やったら来栖を泣かせたりせえへんのに。

(なぁ、来栖)

俺やったら、あかんの?

その問いかけは、虚しくもにゃーんという音にかわって、部屋の空気に溶けた。





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