「…っく、ぅぐ、……っく、」
止まない雨が、猫の毛並を湿らせる。
来栖んちを訪れるなり、俺は彼女に羽交い絞めにされて、部屋まで連行された。
苦しい、と抗議しようにも、啜り泣く彼女を見るとそれはできひんくて、なすがまま今に至る。
「ど、して、言っちゃ……、っく、謙也、悪、」
途切れ途切れの言葉の端々。
それらから察するに、今日の帰り、謙也と一悶着あったらしい。
人の姿やったら、彼女に理由を訊くこともできるが、鳴くことしかできひんこの姿では、来栖と会話することさえも難しい。
もう何度目になるやろう。
この姿になって歯痒さを感じるんは。
せめて、来栖に泣き止んで欲しくて、とめどなく頬を伝う雫を舌で掬いあげる。
「……慰めてくれるん?にゃんのすけ」
泣き腫らした瞳が、こちらを向く。
力なく笑う来栖は、普段の彼女とは似ても似つかんくらい別人に思えた。
「ホンマ、あんたは猫にしとくんが勿体ないくらいええコやね……」
ぎゅうと抱きしめられた耳元に、再び伝わる嗚咽。
尚も泣きじゃくる来栖の姿に、心臓を潰されたかのような苦しさを覚える。
俺やったら来栖を泣かせたりせえへんのに。
(なぁ、来栖)
俺やったら、あかんの?
その問いかけは、虚しくもにゃーんという音にかわって、部屋の空気に溶けた。
-32-
[
≪|
≫]
back