夕陽も傾いた帰り道。
普段は猫の姿で通る道を、今日は人のまま、来栖の手を引きながら歩いとる。

「わざわざごめんな、白石」
「気にせんで。俺が送りたくて送っとるだけやから」

泣き止みはしたものの、時折まだ鼻をすする彼女の顔は赤く、涙を擦った痕が痛々しい。
泣き腫らした顔を見られるのが嫌なのか、俯き加減で俺の後ろをついてくる彼女は、あまりに頼りなくて、あのまま放っておくなんてできひんかった。

今日が新月でホンマに良かった。

猫の姿やったら、傍には居れても、こうして彼女を支えることはできひんから。

「ここやな」

『来栖』と表札の出とる家の前で立ち止まる。
さっき隣の忍足家の前を通り過ぎる際、ほんの一瞬やけど来栖の身体が強張ったんが伝わった。

謙也と石蕗さんに顔を合わせるかもしらんと思うたんやろう。

それが来栖の杞憂で終わって、俺も安堵した。

「おおきに、」

すん、と、鼻を鳴らした来栖は、真っ赤な目をこちらに向けて礼を言う。

「どーいたしまして」

恥じらうような表情にどきりとして、思わず彼女の頭に手が伸びる。

「あんま無理するんやないで?明日も辛かったら仮病でもなんでも使て休めばええ」
「……まさか、白石にサボり勧められるとは思わんかったわ」
「物事は臨機応変っちゅうやろ?」
「……この場合、その使い方って正しいん?」
「さぁ?」

僅かながら顔に笑みを乗せた来栖をみて、こっそり息を吐く。

せめてこの他愛ない会話で、彼女の気を紛らわせられればと思う。

「それから、学校出てこれそうやったら、ひとりで全部抱え込むんやないで?俺がおるから、頼ってや」
「……おおきに。白石は優しいな」
「そうでもないで?」

俺が来栖に優しいんは、俺が君を好きやから。
辛い時傍に寄り添っとったら、いつか君が俺に靡くんやないかっちゅう淡い期待があるからや。

「ほな、今日はホンマおおきに。おやすみ、白石」
「おん。来栖、またな」



……ごめんな、来栖。

来栖に別れを告げつつ、心ん中で彼女に詫びる。

俺はどこかで謙也と石蕗さんがくっついてくれてよかったと思うてる。
悲しむ来栖をみて、喜んどる俺もおるんや。

ホンマ、ごめん。
こんな酷い奴で。

複雑な心境を抱えながら、俺は来栖家を後にした。





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