教室の窓からよう見える中庭。
まだ、色づいとらん銀杏の葉の下で、謙也が奏を抱きしめた。
それだけで、奏が謙也になんと答えたのかがわかる。
おめでとう。
明日笑顔で2人に言ったらなあかんのに、あの2人を直視できる気がせえへん。
幸せそうな2人に、嫌味を言うてしまいそうで。
幸せそうな2人をみたら、今みたいに、涙がこぼれてしまいそうで。
はらはらととめどなく溢れる熱い雫を放って、夕焼けの反射する窓の外を見つめていたら。
がらっ!
大きな音を立てて、教室の戸が開いた。
誰や、こないな時に。
クラスメイトに気遣わせたくなくて、慌てて涙を拭って、作り笑いを浮かべ振り返ると、そこには白石が立っていた。
「どないしたん、白石?忘れ物?」
努めて普段通りに。
笑顔で訊ねると、彼は「まぁそんなとこや」と曖昧な答えを返す。
「珍しいな、聖書様が忘れ物するなんて」
ハハ、と声を出して笑うて軽口を言えば、何故か白石の顔が切なげに歪む。
「来栖、」
「なん?」
「無理して笑うなや」
内心を見抜かれたような言葉に、心臓が不規則に跳ねた。
「別にウチは、」
「ええねん。辛かったり悲しかったら泣けばええねん。抑え込む必要ない」
違う、という否定の言葉さえ言わさずに、白石が言葉を並べて近づいてくる。
「俺が全部、受け止めたるから。泣きたいときは思いっきり泣いてええねん」
ふわり、と白石の腕が背中に回され抱き寄せられる。
「し、しら、いしっ、」
「……こうしとれば、泣き顔も俺には見えへんから」
抱きしめる腕にそっと力を込めて、ぽんぽんと小さな子供にするみたいに、頭を撫でる白石。
その手があまりにも優しくて。
さっき無理矢理封じ込めた涙が堰を切ったように溢れ出す。
「わあぁぁぁんっ、」
子供のように声を上げて泣きじゃくるウチを、白石は泣きやむまでずっと抱きしめてくれとった。
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