それは、ホンマに偶然やった。



今日は新月。
待ちに待った月に1度の猫にならんですむ日。

部活はオフやったけど、時間を気にせず練習できる唯一の日やから、自主練に行こうと思うて、テニスコートへ向かった、その途中。

「あれは謙也……と、石蕗さん?」

中庭の大銀杏の下に立つ2人。
確かあれは四天宝寺イチの告白スポット。

それを思い出すと、嫌な予感がした。

1週間前の記憶を思い起こす。
来栖が泣きそうやったあの日の夜。謙也は何て言うてた?
朝練ん時、先輩らに何て宣言しとった?

謙也には悪いと思うたけど、気配を消して声の聞こえるとこまで近づく。

「俺……ずっと石蕗んことが、」

微かに聞こえる謙也の言葉は紛れもない告白。

石蕗さんは何て答えるんやろう。
もし2人が付き合い始めたら、来栖はどうするんやろう。

「!」

来栖の心境を想像して、不意に思い当たった。
彼女が今朝、SHRの前にどこか意気消沈しとった理由に。

謙也か石蕗さん経由で、今日告白することを知ってしまったからやないんやろか。

ただの直感。
正しいという証拠はない。

せやけど、俺にはこのカンは外れてるとは思えんかった。

やとしたら。
来栖の傍におりたい。

せめて、彼女がひとりで泣かんでもええように。

謙也たちに気づかれんよう、静かに中庭を立ち去ると、俺は自分のカンを頼りに彼女がおりそうな場所目指して走った。





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