『あんまひとりで抱えこんだらあかんで?』

そう言うて、ウチの頭を撫でてくれた白石の瞳は気遣わしげで。
まるでウチの想いを見透かしとるようやった。

なんでやろ。
気づいて欲しいヤツには、全く分かって貰えへんのに。

確かにウチは素直やないから、聖書な白石と違うて鈍い謙也に、気づけっちゅうのは無理があるのかもしらんけど。

「これでも長い付き合いなんになぁ……」

心ん中で謙也に悪態ついて、溜息を吐く。

机に突っ伏した頭を少し横に傾けて、隣の席の謙也に見れば、後ろを向いて奏に数学を教えとった。

「せやからこれをこうしたら……」
「あ、そういうことか!すごい、謙也君。先生よりわかりやすい」
「そ、そないなことあれへんでっ?」

熱心に教えとる謙也は昨日、ウチに相談持ちかけて来たときとおんなじ表情をしとる。
そして、謙也と話しとる奏のほうも。

ごめんな、謙也。
ウチ昨日ひとつだけ嘘言うてん。

奏に好きな相手がおるかどうかもしらんて言うてしもたけど、ホンマは知っとる。
奏本人の口から「好き」やって聞いた訳やない。
けど、人見知りで内気なあの子が、1番多く話題に出すのが謙也のことやから。

多分、テニス部内でも、あの2人の気持ちをしらへんのは、当の本人たちだけやないやろか。

ホンマ2人揃ってにぶにぶや。

早よ気づけ、と思う反面、このままどちらも気づかなければええとも思う。

このまま気づかないで時が経って、奏と謙也が離れ離れになったら、あの子に向けられとった想いのベクトルが、ウチに向くことだってあるかもしれへん。

もし、奏がおらんかったら。
去年、ここに転校して来おへんかったら。

こないなこと、考えたらあかんてわかっとるのに。
奏のこと、友達としてめっちゃ好きなはずなのに。

ふとした瞬間、その「もしも」を想像してしまう自分が、堪らなく嫌やった。

どないしよ。
もし昨日謙也が言うてたみたいに、告白したら。
そして、その告白を奏が受けて、2人が付き合いだしたら。

ウチは、今まで通りに笑うていられるやろか。
今まで通り、あの2人と一緒にいられるやろか。

「ホンマ先が思いやられるわ……」

重たい独白を、そっと空気に溶かした。

そんなウチはまだ知らん。
思い悩んでたことが現実になってしまう日が、すぐ目の前に迫っとることを。





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