夜10時。
いつも通りにゃんのすけを渡すために、謙也の部屋の窓をノックする。

「ほな、後は任せたで」
「おぅ」

謙也の胸に押し付けるようにしてにゃんのすけを手渡すと、大分慣れた手つきでにゃんのすけを抱きかかえた。
普段はそのままお互いの部屋の窓を閉めて、お終いなんやけど、今日は少しちゃうかった。

「なぁ、暁」
「んー?」
「あー、その、さ、ちょお相談事あるねんけど……」
「相談?」
「おん」
「謙也がウチに相談って珍しいな」
「ええやろ、別に……。で、ちょお悪いんやけど、こっち来てくれへん?」
「なんや、ここでそのままやったらあかんの?」
「あんまし、大きな声で言いたないねん……」

普段は大声で喋る謙也が口ん中でもごもご言うんを見て、少しだけ嫌な予感がする。
けど、特に断る理由も見つからんから、そのまま窓の桟に足をかけて、謙也の部屋へ飛び移った。

「で?何なん、相談事って?」
「えー、あーっと、そのー……」
「はっきり喋らんと、相談乗らへんで」

いつまでもまごつく謙也に発破をかけると、テニスで日に焼けた肌に朱を差して。

「暁って、石蕗と仲ええやろ?あ、あいつって、す、好きなヤツとかおるんか……?」

恋する乙女。
仮にも一応男である謙也に対して、この表現は如何なもんかと思わんくもないけど、その喩えがしっくり当てはまる顔をして訊ねてくる。

ずきん。

今年の春、もう1人の幼馴染・忍足侑士から奏を紹介されたとき、謙也が彼女に見惚れとったんに気づいてから、いつか、こんな日が来るんやないかって予想はしとった。
予想しとったんに、いざその時が来るとこんなにも胸が苦しいなんて思いもしんかった。

「さぁなぁ……。ウチ、奏とそういう話あんませえへんし……」

胸の痛みを堪えて、平静を保ちながら答えると、謙也は少しだけ表情を曇らせる。

「そか……。やったら石蕗に好きなヤツがおるかおれへんかもわからんっちゅうこと?」
「せやね」

嘘。
女子の会話で好きな人の話が出えへんはずなくて。
ウチと奏もそういう話はちょこちょこしとる。
せやから、ほんまは奏が誰を好きなんかも知っとるんやけど、それを謙也に伝えることはできひん。
奏の知らんとこで奏の想いを勝手に伝える訳にはいかんっちゅう建前半分、奏の想いを簡単に謙也に知られたないっちゅう本音半分で。

「せやったら、まだ可能性はあるんやな……」

悶々とするウチを前にぼそっと呟いた謙也。

「可能性って?」
「告白してOK貰える可能性。好きなヤツがおるかおれへんかわからんのやったらゼロやないやろ?」

にかっと笑う謙也の顔をまともに見れへん。

「……告白、するん?」

俯き加減のまま訊ねると、頭上に「おん、」と照れを滲ませた謙也の声。

「せやけど、いつどうやって言うんがええんかわからんねん。せやから、」

ずきん、ずきん。

意気揚々と語る謙也の声がだんだん遠くなっていく。

嫌や。
これ以上は聞きたない。

「せやから、校内カップルを誕生させまくってきた暁にアドバイス貰お゛っ!?」

不自然なところで途切れた謙也の言葉に、シャッっという風切音が重なった。

「い゛っでぇぇっっ!?」

反射的に顔をあげれば、涙目になって顔を手で覆う謙也。
そんな謙也の鼻筋に、見事な三本の赤い線。

「〜〜〜〜っ、何すんねん、アホし……っ、やのうて、アホ猫っ!」

毛を逆立てて唸るにゃんのすけを、謙也がぎっと睨みつける。
本気で怒っとる謙也の迫力に負けたんか、にゃんのすけは身体を翻し、窓の桟からウチの部屋へ舞い戻る。

「あ、ちょ、にゃんのすけっ!」

にゃんのすけに引っかかれた痛みにまだ悶えとる謙也に、「早よ消毒してき」とだけ言葉を残して、ウチも自室へ飛び移った。





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