もやもやした気持ちを抱えながら1日を過ごしていると、あっという間に本日最後の授業、LTの時間になった。
「今日の議題は後2か月に迫った木下藤吉郎祭のクラス企画についての話し合いしてや。ほんなら級長、あとは任せたで!」
クラス委員の真壁君を指名して、我らが担任・渡邉オサムちゃんは教室を後にする。
めんどい話し合い放り投げて、煙草吸いに行ったんやな、アレ。
「えー、今回はみんなにめっちゃ重要なお知らせがあります……」
何やら重苦しい出だしの真壁君の言葉に、クラスメイト全員が唾を飲む。
「今回我がクラスはなんと……、舞台出場権の抽選に当選してしまいましたーっ!!」
真壁君の発表に被さるように沸き起こる女子の歓声。
あちらこちらで「何を演ろうか」「ここはやっぱり白雪姫」「いやいや大奥や」などなどの囁きが聞こえる。
……みんなやる気まんまんなんやな。
「えー、大変盛り上がっとるとこ申し訳ないんやけど、」
一歩引いてクラスの様子を眺めとったら、教卓前に立っとった真壁君が言いにくそうに口を開いた。
「実は演目もくじ引きで既に決まってんねん」
「「えぇーっ!?」」
さっき歓声をあげとった女子を中心に、ブーイングが起こる。
「で、因みに何演るんや?」
1番前の席に座っとるコが訊ねると、真壁君は黒板に大きく演目を書く。
「コレや」
彼が指差した文字は『美女と野獣』。
「今から配役書き出すから、これやーっちゅう役者を選んでや!因みに自薦他薦は問いません!」
ブーイング起こしとった女子らが今度はきゃいきゃいと騒ぎ出す。
「白石、また難儀なことになりそうやな」
投票用紙を回しながら、謙也が話しかけてくる。
「間違いなく王子役は自分やろ?」
「いや、案外自分かも知れんで、謙也?」
「俺が?いやーそりゃないやろ。なぁ暁」
「せやねぇ……。謙也の王子とか想像つかへんわ」
「アホっ!そこはそんなことないとか言えやっ!相変わらず可愛くないやっちゃな!」
謙也の隣、つまりは俺の斜め前に座る来栖も会話に加わると途端に賑やかさを増す。
「因みに石蕗さんはどう思う?」
「え、あ、私?……私は、謙也君の王子も、いい、と思う……」
俺の隣でにこにことしていた石蕗さんも巻き込むと、彼女はしどろもどろしながら答えた。
「さすが石蕗!見る目あるわぁ」
「アホ。自分で言うたら世話ないわ。奏、こんな奴に気遣わんでもええんやで?」
「え、まさかお世辞やったん!?」
「あ、ううん」
ふるふると石蕗さんが首を横に振ると、勝ち誇ったような笑みを浮かべる謙也。
「ほれみぃ、暁っ!やっぱ石蕗は見る目あるっちゅう話や!」
「言っとれば?奏は優しいからそう言うてくれるだけやってすぐにわかるはずやから」
その笑顔の訳がただ単に褒められたからだけやないってことは、多分来栖も見抜いとる。
憎まれ口を叩く彼女の顔に一瞬、本当にほんの一瞬だけ哀しそうな色が滲んだから。
当の謙也は全く気付かへんかったけど。
「なんやて!?」
「やって間違いなく王子役は白石やろ。ウチそっちにダッツ賭けてもええくらい自信あるし」
「言うたな?やったら俺とか他のやつが王子役に抜擢されたら、自分俺にダッツ奢れや」
「ほなら、ウチの宣言通り白石が王子役になったら謙也がダッツ奢りな」
「え、ええでっ!暁こそ、あとで財布が寂しいことになっても知らんからな」
「そういう謙也こそ。後で小遣い前借りせなあかんくなっても知らんからね」
夫婦漫才のようなノリで勝手にヒートアップしとる2人を、俺と石蕗さんは苦笑しながらただ眺めていた。
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