俺が猫になってから2週間。
朝は自宅から学校へ向かい、夕方から数時間は来栖んちで“にゃんのすけ”として暮らし、就寝前に謙也んちに移り。
そっから謙也にチャリで俺んちの近くまで送って貰て、跡部財閥の科学力と幸村君の魔法で作り上げたダミーの俺に部屋にあげて貰う。
んで、俺は猫のまま布団に入り、ダミー君は押入れに隠れて朝を迎える――。
とまぁ、なんともややこしい生活習慣にも漸く体が慣れてきた。

俺としては早いとこ跡部製薬に元に戻れる薬を開発してほしいトコなんやけど、幸村君も跡部君も難しいと言うてただけあって、その作業はかなり難航しとるようやった。

せめて冬が来る前には元に戻りたい。

これから先、日が暮れるんはどんどん早なっていく。
それはつまり俺が人の姿でおれる時間が短くなっていくんと同義。
部活をやってる間に猫になってしまうような危険性もあるかもしれへん。

今でも、それまでみたいに遅くまで自主練することができんようになったから、こうして全体での朝練が終わった後、朝のHRに間に合うぎりぎりの時間までその分を補って、レベルを保っとるくらいなんや。
これ以上練習する時間が短くなってしもたら、このままレギュラーでおれるかどうかも危うくなってしまうかもしれへん。



「「おぉ――っ!!」」

さすがに練習切り上げんとまずい時間になって、素振りしとったラケットをしまって部室に戻れば、着替え終わった人らが歓声を上げていた。

「……どないしたんです?」

状況が掴めん俺は近くにいはったハラテツ先輩に事情を尋ねる。

「お、白石お疲れさん」
「ども、」

にかっと歯を見せて笑うて、先輩は手招きする。
耳を寄せろっちゅうことなんやろか。

「聞いて驚け。謙也がとうとう決断したんや」
「決断て、何を」
「こ・く・は・く・よん♪」
「のわっ!?」

ハラテツ先輩の言葉を継いだんは、いつの間にか背後におった小春で、予想外の方からの声に思わず驚いてしもた。

「告白て……」
「勿論、相手は奏、」
「くおらー、小春!いらんこと喋んなっ!」

他の先輩らに囲まれとった謙也が、相手の名前が出た瞬間に叫ぶ。

どんだけ地獄耳やねん。

「別にええんちゃいます?謙也先輩が石蕗先輩好きなことくらいテニス部中がとっくの昔に知っとりますし」
「んなぁっ!?」
「何や謙也、バレてへんつもりやったんか、アレで」
「ほんま、アホっスわ。気づいてへんの当の本人くらいやないです?」
「財前もユウジも黙っとれ!」
「ええやん、ええやん。このまま石蕗ちゃんに聞こえたら進展も早いかもしれへんで?」
「いやいやいやっ!?」
「一緒に藤吉郎祭のダンパ踊るんやろ?」
「んで、ずっとラブラブしたいんやろ?」
「ちょ、先輩らまで……っ!ホンマ勘弁して下さいって!」

謙也をからかって騒いどる周りを横目に見ながら、制服に着替え始める。

謙也が告白、か。

石蕗さんと謙也がくっついたら、来栖はどないすんのやろ。
来栖が謙也を諦めたら、その時俺は――

俺は、どないすんのやろ。


季節が変わり始めるのと同時に、俺らの関係にも変化が訪れようとしていた。





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