口論の結果、にゃんこは2人で飼うという方針で落ち着いた。。
具体的には夕方から夜寝る前まではウチがにゃんこを堪能して、眠りに着く前にウチの部屋から謙也の部屋へこのコを渡すという方法。
「謙也んちにおるほうの時間のが長いやんか!」と抗議したが、「どうせ昼間は学校におるんやし、猫も広い家で遊ばせといたほうがええやろ」という謙也の意見にウチが納得、この方法に落ち着いた。
『はー……。おっまえ、ホンマ昔から猫んことなると見境あらへんな……』
ケータイの向こうで謙也の盛大な溜息。
「アンタのスピード狂とは違うて、一応世間一般の常識は弁えとるつもりやけど?」
『余計なお世話や!……ちゅうか、結局あの猫半分以上自分ちの猫になりそうやな』
「それでええいうたんは謙也やろ?」
『わぁっとるわ。但し丁重に扱うんやで?』
ペットといえばイグアナ以外に興味がなかったはずの謙也が、珍しくこの猫に関しては食い下がってきよるし、世話についても色々念を押す。
「そんなん言われんでも当たり前や!VIP待遇で可愛がったるし」
『それならええわ。まぁアイツの世話は任せたで』
「おん、任された」
そんな謙也に疑問を抱きながらも、その言葉に頷いて通話を切った。
「良かったなー。これで自分、晴れてウチのコや」
半分は謙也んちのコやけど、と口の中でぼやきつつ、机の上で緊張気味におすわりしとるにゃんこの頭を撫でてやる。
そういえば、共同とはいえ折角ウチのコになったんやから、いつまでも“アンタ”や“自分”呼びじゃ可哀相やな。
「名前考えんとなぁ……」
どんな名前がええやろか。
やたら別嬪さんな猫のため、“タマ”とか“トラ”っちゅういかにも猫って名前は似合わへん。
かといって“マイク”や“ジョン”っちゅう外人さんみたいな名前もしっくりせんし。
どないしたらええんやろ、と頭を悩ますウチの視界に、クリップボードに貼られた1枚の写真がとまる。
それは中学の卒業式のときの写真やった。
あの時も今みたいに謙也とウチと白石がおんなじクラスで、中学最後の思い出にって3人で撮ったもんやった。
「やっぱ、似とるなアンタ」
写真の中の白石と目の前の猫の毛色を見比べると、光の反射の仕方とかまでホンマそっくり。
白石は四天宝寺で一番の人気を誇る所謂イケメン。
アイツが猫になったら多分こんなんじゃないやろか。
「いっそ、“白石”にしてまおか」
けれど、それはそれでクラスメイトをペットにしとるみたいで嫌やし、同様の理由で“蔵ノ介”も却下。
“蔵”とか、小春ちゃんがふざけて呼ぶ“蔵リン”とかでもええかもしれんけど、ウチとしてはちょっとイマイチ。
何かないやろか。
こう可愛さとかっこよさが相俟ったような名前。
ボードから外した写真と猫の顔を交互に見比べながらうんうんと唸る。
白石、猫石、ねこすけ、ねこのすけ……。
「あ!“にゃんのすけ”ってどや?」
唐突に閃いた名前を口にすれば、お座りしている猫も一瞬驚いたようにみえたけど、にゃんと鳴いて尻尾を1回ぴしりと振った。
どうやら気に入ってくれたみたいや。
「ほな決まり!今日からアンタはにゃんのすけや」
「暁ー、ご飯やでー!」
「はあい!」
絶妙のタイミングで階下から母の呼ぶ声。
「ほな、ウチ今から夕飯食べて来るな。にゃんのすけの分も後で持ってきたるから、大人しゅうしとるんやで?」
「にゃん!」
にゃんのすけの可愛らしい返事を聞いて、ウチは自室を後にした。
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