「にゃあ〜(はぁー)……」
吃驚した……。
来栖に“白石”と呼ばれた瞬間、俺が猫になってるんがバレたんかと思うたわ。
さっきの電話で幸村君から『今事情を知ってる人間以外に猫になってるのがバレたら、元に戻れなくなるから気を付けてね』と今更ながらに脅されてた分、余計にひやりとした。
ちゅうか、この2、3日の間にバレてまう可能性もあったんに、恐ろしいこと言わんでくれ、幸村君。
まぁ来栖の言葉の端を拾う限り、髪色と毛色が似ているからそう言うたんやろうけど。
(しかし、“にゃんのすけ”なぁ……)
蔵ノ介っちゅう音の響きと近いせいか、彼女に名前呼びされてるみたいで少し嬉しい。
人間ん時は絶対苗字でしか呼んでくれへんからな、来栖は。
彼女が下の名前を呼び捨てにするんは、幼馴染である謙也だけ。
謙也自身は、小学校まで侑士君も一緒におったから、侑士君との区別をつけるためだけやっていうけど、それは違う。
視線を下に向けると俺と謙也と来栖の3人が笑い合う写真が目に入る。
それ以外にも、この部屋のクリップボードには何枚もの写真が貼られとった。
入学式や卒業式といった記念日は勿論、遠足とかの学校行事、それと家族旅行らしい写真もある。
それらのどの場面にも必ず謙也が写っている。
やっぱりな。
彼女を好きになってから、気づけば彼女を目で追っていた。
せやからこそ気づいた、彼女のキモチ。
いつからかなのかはわからない。
もしかしたら俺と出会う前からなのかもしれない。
彼女が時折謙也に向ける視線が、俺が彼女を見つめる眼差しに良う似てたから。
だからわかっていた。
俺に勝ち目はないんやって。
せやけど、わかっていてもあからさまに事実を突きつけられればやはり気分は沈む。
しかも、俺の場合、勝ち目がない=猫化の呪縛から逃れられないという方程式ができあがっているから尚更や。
(ホンマ、どないしよ……)
この姿になって何度目になるのかわからない重たい溜息が口を吐いた。
-13-
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