「で、白石。ホンマに今は何ともないんやな?」
「おん」
始業式、課題テスト、昼食。そして午後からも課題テストを2教科こなして、最後に部活。
1日の全ての過程を終わらせても、俺の身体に変化は見られなかった。
「ホンマ、なして戻れたんやろ」
昨日来栖の家であったあれこれを謙也に話し、2人して俺が元に戻れた理由を探してみたが、結局これといって確証の持てるものは何ひとつない。
「やっぱ1番可能性あるんは、一緒のベッドで寝てた時に、暁が猫のお前にキスしてもうたっちゅうことやけど」
「せやから、それは有り得へんって」
謙也は来栖の想いを知らんから、彼女が俺を好いていて、それで元に戻れたんやと言い張る。
「せやかて、お前も好きなんやろ、暁んこと」
「それは……、そうやけど」
ちゅうか、いつの間にか俺のキモチが謙也にバレとったことにも驚いた。
「せやろ?やったらなしてそれを否定するん?」
「俺のカンや」
謙也は来栖がしょっちゅう俺ら2人と一緒におるんを、俺が好きやからって思うてる。
せやけど、違うんや。
彼女は……。
ヴー、ヴー。
「謙也、ちょいスマン」
ズボンのポケットでケータイが震える。
長いバイブ音で電話だとわかるそれをとると。
『もしもし。白石かい?』
男にしては少し高めのトーン。
俺を猫にする原因の一角を担った幸村君やった。
「おん。白石やで」
『こうして電話に出られるってことは、今は人間の姿なんだね』
「おかげさまでな。何やようわからんけど、朝起きたら元に戻れてん」
『そうか。じゃあ昨日言ったことを実行したわけではないんだね』
「好きな子と……ってやつか?してへんしてへん」
『そうか……』
電話口の向こうで深刻そうに唸る幸村君。
「何や問題でもあるん?」
『あー、うん。喜んでる君に残念なお知らせをしなくちゃならないんだ』
いやいやいや。
その口ぶり全然残念そうに聞こえへんのやけど。
ちゅうか、どことなく楽しそうなんは俺の気のせいか!?
『あれから俺なりに乾たちが開発した薬を調べた結果、彼らが混ぜた薬草の中に、魔法の効果を半減させるものがあったんだ』
「お、おん……」
『魔力は元来月の力をその源としている。だから、月の力が衰える新月の日や日中……、日の出から日没までの間は人間の姿に戻れるらしいってことがわかったんだ』
「え、えーと、それはつまり…………」
幸村君の言葉から脳が導き出した答えは、できれば認めたくないもの。
額を嫌な汗が伝う。
『つまり、昨日言った方法を実行しない限り、月のある夜、太陽が沈むと同時に白石、君は猫になってしまう、ということだよ』
や っ ぱ り か !
最悪の事実を突きつけられたと同時に頭上の街灯が点り始める。
『あぁ、そういえばそろそろ日没だね』
「なにが……っ!」
――ボフンっ!
「白石っ!?」
電話の向こうでくすり、と微笑んだ幸村君に反論しようとした瞬間、目の前が真っ白になった。
「ちょお、大丈夫や……って」
何処から湧き上がったんかわからん煙を片手で払えば、さっきよりも随分高い位置にある謙也の顔。
ちゅうか、謙也の顔よりも地面のが近い。
(……なぁ謙也、俺ってもしかせんでも)
目を瞬かせる俺の前に謙也が出してくれたケータイ画面。
でかでかとした星マークの待ちうけが消えると、黒い画面にぼんやりと映る猫の姿。
「ばっちり猫になっとるわ……」
あかんわ、と言わんばかりに頭を抱える謙也。
寧ろ俺のほうが頭抱えたい気分やっちゅうねん。
あぁ、もうホンマのホンマに
「にゃああああああぁぁぁっっっ(なんっっっでやねーんっ)!!?」
-10-
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