夏休み明け1日目。
あれから家に戻った俺は、制服に着替えて普通に登校した。
普段やったら少々憂鬱な新学期も、今日ばかりは少し嬉しかった。
ホンマ人に戻れてよかったわ。
「おっはよーさんっ!」
今朝に続き再び喜びを噛み締めとると目の前の扉が開いて、謙也が勢いよく駆け込んできた。
「謙也、おはよーさん」
「おー……って!白石っ!?お前ねk」
ゴンっ!
「声がでかいわ、アホ」
咄嗟にグーで謙也の頭を殴って黙らせる。
「す、すまん……」
涙目になりながら謝る謙也を許し、顔を近くに寄せるよう手で合図する。
「ちゅうか、自分昨日あれからどしてん?色んなとこ探せど探せど見つからへんし」
状況を悟り、謙也も声のボリュームを抑えて話し出す。
「あぁ、昨日はな、」
「ねぇ、2人して何こそこそしてるん?」
「「のわっ!?」」
至近距離に顔を近づけていた俺らの間に割って入ってきたのは来栖やった。
「2人とも傍からみるとめっちゃアヤしいで?」
雁首揃えて何しててん、という来栖の問いに、謙也はうっ、と言葉に詰まった。
「ちょお謙也に相談したいことがあってな」
俺が助け舟を出したると、来栖は驚いたように目をしぱしぱさせる。
「白石が謙也に?謙也が白石に、ではなく?」
珍しいこともあるものだ、と感心する彼女に、謙也が「ひどないか、それ!」とツッこんだ。
「ま、それは置いといて、」
謙也のツッコミを見事に躱して、話題転換をはかる来栖。
「白石さ、ウチのにゃんこ見ぃひんかった?」
「猫?」
来栖のいうウチの猫っちゅうんは間違いなく俺のこと。
思わぬ話題を振られて内心ぎくりとしたが、何とか平静さを装って聞き返す。
「そう!めっちゃ別嬪さんな猫なんやけどなー」
「つか、暁。お前いつの間に猫なんて飼うたん?」
「昨日の夜。道端ふらぁって歩いてたんを捕まえた」
謙也の質問に来栖は笑顔を返す。
「まさしくウチの理想の猫やったんよー」
「理想の猫?」
俺が聞き返すと、来栖は昨日猫やった俺に遭遇したときみたいに瞳を輝かせた。
「そ!毛並みさっらさらで細身で顔も綺麗な猫やってんけどなー」
「逃げられたんか」
「謙也、ヒドっ!そないにはっきり言わんでもええやんか!」
謙也に対して反論すると、彼女はすぐにはぁ、と溜息をついた。
「家帰ってれば戻っとるんかなぁ」
「どうやろなぁ」
相槌を打ちながら心の中で来栖に詫びる。
ごめんな、その猫俺やねん。
せやから来栖には悪いけど、多分2度と現れへんわ。
「ちゅうか、暁。その猫って具体的にどんな姿してるん?さっきから抽象的すぎて探すにも探せんわ」
「あ、何謙也。探してくれるん?」
「一応な」
「おおきに。さっきも言ったとおり、細身でさっらさらの毛並みしとる猫や。色は……、なんていうんかな。茶色っちゅうには薄くて、クリーム色よりも濃い……」
猫の特徴を思い出しながら説明する来栖が、俺をみて「あ」と声を上げた。
「白石の髪色が1番近いわ。こーいう薄めの茶色の猫」
そこまで聞いて、謙也がびしり、と音を立てて固まる。
「…………暁」
「なん?」
「因みにその猫、何処で拾うた?」
「え?確か……謙也んちの前」
来栖の答えをきっかけに、俺は謙也に昨日の出来事全てを話す羽目になった。
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